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「で。焼鳥のタレの試食なんですね。」
檜垣さんはそう言って 雨宮さんが出した
焼鳥をまじまじと眺めた。
「ああ。涼が持ってきた醤油がなかなか
手強くてよ。醤油そのものに甘みがあるから
それに合う砂糖の配分がな・・。」
ザラメ・上白糖・三温糖。
色々試してみたんだけど どうもこれというのが
無いらしく。意見を求められても
物足りないですとしか ずっと言ってない。
「確かに配分一つで全く別物になりますから。
特に焼鳥のタレは今後継ぎ足しになるんですよね?」
檜垣さんはそう言って焼鳥を口に入れる。
雨宮さんは ああ。と頷いて首を傾げた。
「だからこそスタートが肝なんだよ。
うちはどうしても一代でやってるからな。
引き継ぐものがねえってのが難点でよ。
親方のタレの作り方は参考にしてるんだけどな。」
納得いっていないのか
はあ。と深くため息をついた。
うーん。難しいですね。と檜垣さんも唸ってるし
プロの人達が分からない事を俺が分かる訳が無い。
やっぱり俺なんて何の役にも・・・。
その時 叶さんに言われた事を思い出した。
思い出。
自分の記憶にある旨い物に置き換える事から
始めてみれば・・・って・・。
ふと思い出した。
ああ。焼鳥と言えば縁日で食ったヤツ。
美味かったなぁ・・。
小ぶりで肉も固くて 雨宮さんが出す焼鳥とは全然
別物だったけど。タレがドロッと甘くて。
「・・あの。俺。思い出したんですけど。」
ぽつりとそう口にすると なんだ。と
全員が俺に目を向け ぎょっとする。
怯むな。
もうどうせ最初から何も出来ないのは
知れ渡ってんだから・・。
そう。失う物なんて何もない。
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