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嫌な思いねぇ・・。
「謝るんだったら俺じゃなくて久米さんにだろ。
新の気持ちもわかるけど あれだけ心配して
くれてるのに あの態度はちょっと無いなと
涼さんは思います。」
うんうん。
一人で頷いて生ビールへと口をつける。
ビックリして喉カラカラですよ。
冷たい刺激が乾いた喉を通り スッキリする。
「はぁ〜。旨い。お前もなんか飲めば?
少し落ち着くんじゃない。」
そう声をかけると 新はコクンと頷いて
ロックグラスに氷も入れずにスコッチを注ぎ
グッと飲み干して 唇をぐむっと引いた。
気付け薬じゃん。
それ。
結構いっぱいいっぱいだったんだな。
ちょっと心細げな様子も可愛いし。
くすっと笑うと 新は情けなさそうに眉を下げる。
今度は氷を入れ スコッチを注ぐと
カウンターを出て俺の隣にちょこんと座った。
「ほら。」
ジョッキを差し出すと カツンとグラスを合わせる。
グラスに口をつけ ホッと息を吐き出すと
新はポツポツと話し始めた。
「・・じいちゃんに引き取られて。
ガキが育つのには金はかかるし 親の責任として
金銭面は全部向こうが用意してたのね。
学校の費用やら手続きやら。そういった事は
久米がずっとやってくれてて。親父の腹心でさ。
要は煩わしい事は全部久米に押しつけてたって話。
でも。内心すごく嫌だった。
とはいえ じいちゃんに負担をかける訳には
いかないし 久米に大学はアメリカにって勧められて
向こうに行って。正直 金しか繋がりが無い
親子関係ならいくらでも使ってやろうって
それくらい思ってたのもあってね・・。」
ああ。成程な・・。
「まあでも。良かったんじゃねえの?
向こう行って飯食う事や食にも興味持てるように
なったってこないだ言ってただろ。
それが今 仕事になってんだから 久米さんの
助言通りにしといて正解だったんじゃん。」
そうだけど・・。と言いながら
なかなか素直に認められないのか
新は顔をしかめたままだった。
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