218 / 292
10
「叶様のお怒りはごもっともです。
私もそう思います。言い訳にもなりません。
せめて何か少しでも出来る事は無いかと
今までやってきておりましたが。。
私共夫婦には子供がおりませんでしたので
感情移入をしてしまっていたんですかね。
つい 躾けるように叱った事もございまして。
とはいえ 新様にとって私はただ金を持ってくる
オジサンでしかございません。
口煩く言われるのも学生の頃は我慢されていましたが
成人されて あの店を継いで独り立ちされてからは
一切私の言葉には耳を傾けて頂けなくなりました。
檜垣も離婚して 養育はもう終わりと
関係を断ちましたし それを止める事も出来ず
最後の最後まで新様を傷つけて
しまいましたので。。」
ふう。と息を吐き出すと カップに口をつける。
まあな。
この人はただの使いでしか無くて 親が終わりって
言ったら それこそ完全に関係のない人になる。
っつーかさ。
終わり。で親ってやめられるんですかね。
それにまず おいっ!って言いたいけど。
とはいえ久米さんに言ってもしょうがない。
「暫く新には会ってなかったんですか?」
「ええ。あの家の権利を新様に譲る手続きが
私の最後の仕事でございましたから。
本社もその頃 ロスに移転しましたし。。
たまに日本に戻って来た時 何度か尋ねようかと
悩んだのですが勇気もございませんでね。
それが新様がパートナーを作り
一緒に同居しているとお聞きして驚きまして。
居ても立っても居られず・・。」
疎まれるのを分かりながらやってきて。
俺に嘘ついて。
新の様子聞いて。
って事ですね。
うん。
「親からの愛情を受けて育ってらっしゃらないからか
今まであまり好ましくない行為が多かったもので。
また何か問題になるのではないかと
心配になりまして。。。
しかし貴方とお会いして安心致しました。
本当に良かったと心から思っております。」
久米さんはそう言って 背筋を伸ばすと
深々と頭を下げる。
「今後とも新様を何卒宜しくお願い致します。」
「あ・・。はい。それは勿論・・。
っていうか俺がいつも宜しくされてるんですが。
ズボラだし新よりガキなんで 助けて貰ってるのは
俺の方なんで。はい。」
慌てて頭を下げ返し そう言うと久米さんは
くすっと笑った。
なんか。
その笑顔がまるで肉親が心から
喜んでいるかのように見えて。
やっぱな。
この人は・・。
もう。完璧 親ですね。。
ともだちにシェアしよう!