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大通りでタクシーを停め 運転手に万札を握らせて 恐縮する二人を無理矢理押し込み 走り去るタクシーを見送った後 家に戻る。 「新。二人帰ったよ。」 そう声をかけても返事が無い。 あれ。 どうしたんだろ。 リビングを覗くと新の姿は無く 階段から店を覗き込んでも電気は消えたままで。 ・・・ああ。 あそこか。 天井を見上げた。 この建物は町中に建っているのもあって ベランダが無い。 屋上があって いつもそこで洗濯物を干したり 夏になるとデッキチェアーに寝そべって 二人でビールを飲んだりするんだけど。 今は真冬ですからね・・。 少し 冷静になりたいんだよな。 かなりショック受けてたみたいだったし。 とりあえずジャンパーを掴み トントンと階段を上がる。 ドアを開けると 新は手すりに寄りかかり じっと動かない。 その広い背中が寂しそうで。 まあ。そうだよ。 恩人だもんな。 誰だって大事な人には幸せになって貰いたい。 あんな可哀想な姿見て 傷つかない訳ないよな。 ・・それに。 「ほら。また熱出すぞ。」 近づいて バサッとジャンパーをかけると 新は振り向き 暗い目を俺に向けて クシャッと 顔を歪めた。 「・・ごめんね。ホントは俺が送らなきゃ いけなかったのに・・。」 「いいよ。思い出しちゃったんだろ。 新はわかっちゃうもんな。ひとりぼっちが どんだけ辛いかさ。」 トラウマになるくらいの辛さを 新は身をもって知ってる。 そんな思いを茂さんがするのかと思ったら かける言葉も見つからないですよ。 ね。。 横に並んで空を見上げた。 おー。 今にも降りだしそうですこと・・。 どす黒い雲がもくもくと。 「・・・涼。」 ん?と目で問い返すと ぎゅっと手を握られた。

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