268 / 292
3
「どこ行くって食うんですよ。」
食う。
「え。空港で?着いたばっかだよ。」
「着いたばっかだからですよ。
何言っちゃっちゃってんですか。」
カラカラと音を立てながら俺の元に戻ってくると
今度は涼が俺の手を掴む。
「ほら。こっち。行きはこっちで
帰りはあっち。もう決めてんだから。
出張で来た時はさ。帰りしか食えなかったんだよ。
上司と一緒で行きたいって流石に言えなくてさ。
帰りは一人だったから。
だから今回は行きも帰りも食うんです。
最高のスタートを切って最後もパシッと〆る。」
そう言いながら俺の手を引き 空港を歩き始めた。
って何を食うんだろ。
仕方なく黙って されるがままについていくと
目の前にカウンターの小さな店が見えてくる。
店と言ってもドアがある訳でもなく
急に現れるカウンターって感じ。
赤い暖簾にタコのキャラクター。。
あー。
たこ焼き・・か。
「大阪のたこ焼きはさ。店で全然味違うんですよ。
出張の時 食いまくったんだけど
それにびっくりしてさぁ。同じ店名なのに。
焼く人で違ったり その店舗独自の味があったり。
これはね。いい勉強になりましたよ~。
それを知ってからはさ。チェーン展開してる店の
オーナーさんそれぞれに違う製品勧めて
卸すようになった。
同じだからって全部同じじゃねえんだよなぁ。」
涼はそう言ってニカっと笑うと 「こんちは~。」と
カウンターの椅子を引いた。
7割くらい埋まってる。
リーマンに家族連れや旅行なのか若いカップルも。
みんな美味しそうにたこ焼きを頬張りながら
ビールをグビリ。
ああ。成る程ね。
もう空間が土地の色を表してる。
「・・ワクワクするね。」
「だろ。」
涼は早速生ビールとオーソドックスなたこ焼きを頼み
ニコニコと嬉しそうに微笑んだ。
ともだちにシェアしよう!