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「そうだけどね・・。」 新はよいしょっと起き上がると俺を抱え上げて 正面からぎゅっと抱きしめた。 ・・なんだろ。 なんか不安が伝わってくる。 「新? どうした。何かあったか? ちゃんと話せって。別に泣き言言ったって 文句言ったって嫌いになったりしないし 全然 カッコ悪くないから。 な。ほら。全部話しちゃいなさい。」 トントンと背中を叩くと 新は体を離し 困ったように苦笑いを浮かべた。 「もう・・。ガキじゃないよ。俺。」 「こういう時ちょっとガキっぽいだろ。 ほら。涼兄さんに全部言っちゃいなさい。」 こんな時くらいはと 年上ぶって ほらほら。と促すと 新は諦めたように ため息をつき 俺の手をしっかりと握る。 「茂さんの事があってからね。ずっと考えてて。」 「うん。」 あれから程なくして茂さんは本当に戻って来た。 実際そんなにすんなりとはいかなくて 一旦は放棄したスギさんがぐちゃぐちゃ言い出して。 新が対処しようとしたんだけど 争いを望まなかった茂さんが断り かなりの手切れ金を渡したって聞いてる。 「大丈夫よぉ。老後の為に資金は貯めておいたし あたしにはこんなに家族がいるんだから。 さぁさぁ。あんたたち!これからはお通し代 倍に値上げするわよ。覚悟しといてね!」 やっと開店にこぎつけた日。新と二人で行くと 店には入りきれないくらいの常連さんが来ていて。 みんなを見回し 嬉しそうにそう言ってた。 落ち着いてからでいいって言ったのに 頑として こっちで払った手付金も返すって 聞かなくて。 新の手を握り ありがとうって泣いてた。 まあ。でもとりあえずよかったなって ホント思ったけど。 新もホッとしたように見えたし。

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