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2.氷雨SIDE
俺こと、穂積氷雨(ほずみ ひさめ)の父はとある会社の重役をしている。
その会社の息子さんが俺と同じ年だという事で、俺はその子のお世話係に選ばれた。
将来もしその子がΩなら番に、αなら仕事仲間になって欲しい。それ迄は友達として側に居て見守って欲しい。
父の会社の社長に頭を下げられながら頼まれて、俺は狼狽した。
自分より明らか年上のそれも父の会社の社長という偉い人にされた頼まれ事は、まだ自分には難し過ぎて頭が混乱した。
まずαやΩが分からなかった。
困った顔で父を見ると、この世界の性別の事から説明してくれた。
この世界には男女の性別だけでなくα・β・Ωがあり、αは優秀でβは普通でΩは男女関係なしに妊娠が出来る。
人口の比率はβが一番多くαは少ない。
そしてΩはそれよりもっと少ないらしい。
αは優秀な遺伝子を持っている為、生まれつき何でも出来る。そして努力すればより上に行ける存在。
α女性は女性だが妊娠させる機能もあり、α女性が女性や男性に子供を産ませる事もよくあるらしい。
βは普通に男女間で結婚する事が多く、人口の殆どを占める。
Ωは遥か昔妊娠や性処理の為の道具扱いをされていた時期があった為、未だに身分的に一番劣っていると思われている。
まぁ、今は国全体で身分差を無くそうという考えが広まっている為本格的な差別は無くなったが、苛めや性犯罪に巻き込まれるΩは多い。
Ωには周囲の人を惑わすフェロモンがあり、それが強くなる発情期にはαだけでなくβにも狙われる。
因みに発情期には通常より妊娠しやすくなる。
Ωは身を守る為必死に逃げ続けるか抑制剤で症状を抑えるかαと番にならなければならない。
番とはαとΩ間にのみ結ばれる結婚みたいな物だ。
一度成立するとαからしか解消出来ない。
αは解消後望めばスグにでも新たに番を作れるが、Ωには精神的負担が激しくかかるらしく一度解消されたら二度と誰とも番になれず、尚且つ発情期も閉経期を迎える迄続く。
因みに俺の家系も社長の家系もαばかり産まれているらしくβやΩは殆ど居ない。
だが先程頼まれた子は見た目が完全にΩらしい。
名前は天羽泉里(あもう せんり)。
未熟児で産まれたからか、身体も小さい。
このままじゃ苛められてしまうのではないかと不安になった社長は無理を承知で俺に頭を下げた。
将来の事はまだ分からないが、夢やしたい事が見付からなければ多分父と同じ会社に就職すると思う。
友達として側に居て将来仕事仲間になる位なら良いか。
番はΩだった時しか関係ないし、互いになりたいと思わなければならなくても良いと思う。
どちらにしてもまだまだ先の事だし、急いで考える必要もないだろう。
取り敢えず顔だけでも知っておきたい。
社長に頼むと沢山の写真を見せてくれた。
…………………っ!!
は!?
その写真を見た瞬間俺は硬直した。
男の子と聞いていたのだが、完全に女の子にしか見えなかった。
それも物凄い美少女。
天使といっても過言じゃない。
これじゃΩだと心配にもなる筈だ。
下手したら苛めだけでなく、犯罪に巻き込まれたりする可能性も有り得る。
本当は四六時中家族で守りたいらしいが、家以外でそれは不可能だ。
その為常に側に居れる人を探し、俺に白羽の矢が立ったのか。
儚げに微笑む可愛らしい写真に目を奪われつつ、俺が守らなかったらこの子はどうなるんだろう。
不安に襲われた。
こうして俺は社長の頼みを断れず、泉里と逢う事になった。
幼稚園で見た泉里は写真より遥かに美しく儚げで、常に皆の視線を集めていた。
だが、誰も近寄らない。
近寄り難いのだろう。
その為必然的に泉里の側に居る人間は俺だけだった。
この可愛らしい天使を自分だけが独占している。それはある意味優越感だった。
ある日泉里が体調不良で幼稚園を休んだ。
別に1人は嫌いじゃないし1日位大した事ないって思っていたのだが、何故かその日俺は沢山の人に話し掛けられた。
お陰で常に誰かと一緒に居れて楽しめたのだが、泉里が居ない寂しさは拭えなかった。
翌日幼稚園に泉里が来たのだが、声を掛けた瞬間逃げられた。
「泉里?」
泉里が俺から逃げた。
初めて起きた現象に頭が追い付かず一瞬フリーズしたが
「待って、泉里」
俺は慌てて泉里を追い掛けた。
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