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3.泉里SIDE
幼稚園から一番近い公園のトンネルの中に入り込むと、俺はポロポロ涙を零した。
友達の作り方を知らない俺にとって氷雨は唯一の友達だ。
だけど、俺に氷雨を独占する権利なんてない。
俺のせいで氷雨は嫌な想いをしてるんだ。
寂しいけれど父に言って幼稚園を変えて貰おう。
ずっと側に居たいけれど、側に居ちゃいけないんだ。
嫌だな。離れたくないよ。
でも俺の我が儘と父の命令で氷雨に迷惑を掛けるのはいけない事だ。
大好きな氷雨が居なくなったら俺は多分生きていけない。
一度知ってしまった優しさを失う事は哀しくて苦しくて心が引き裂けそうになる。
「…氷雨。氷雨」
泣きながら名前を呼んで、俺は蹲り小さく身体を丸めた。
離れなきゃいけないって分かってるのに、離れたくない。
どうして良いか分からなくて止まらない涙。
ヒックヒック泣いていたら
「泉里」
突然名前を呼ばれた。
トンネルの入口に居たのは氷雨。
「おいで?」
優しい笑顔で手を差し伸べられて、無意識にその手を掴んだ。
グイッ、強く引っ張られて
「氷雨?」
抱き締められた身体。
慌てて腕から逃げようとしたらヨシヨシ頭を撫でられた。
どうして幼稚園から逃げ出したのか、何故泣いているのか聞かれて素直に全て話したら
「バカだな泉里は」
ふわり微笑まれた。
俺の話を聞いた氷雨は全て自分の意思でしている行動だから泉里は何も気にしなくて良いんだよって言ってくれた。
命令されたからではなく、側に居たいから一緒に居る。
泉里は誰よりも大切な一番大好きな友達だ。
そう言われて嬉しくて涙が溢れた。
「ありがとう」
抱き締められた腕の中、俺は感謝の気持ちを口にした。
それからは俺は周囲の事等気にせず、氷雨との友好を深めた。
相変わらず鳳くんは俺にだけ意地悪な態度を取る。
最初は嫌で泣いたり落ち込んだりしていたが、途中からムカついてきて最近は出来るだけ無視している。
特に変わり映えしない日常を繰り返しながら、俺は中学生になった。
「どうだった?」
「え、マジか」
周囲がざわついているのには理由がある。
今日俺達の学年は血液検査をした。
中2の身体測定で性別を調べる検査は国から義務付けられている。
この段階で全員自分の性別を知る。
学年の殆どがβで、やはり少ないらしくΩは誰も居なかった。
そしてαは意外と多かった。
俺と氷雨と鳳くんとクラスの委員長。
他にも違うクラスに数人。
学校側はαの多さに驚いていたが、俺は自分の性別に驚いていた。
てっきり自分はβかΩだと思っていた。
αは恵まれた容姿と頭脳と運動神経とカリスマ性を持っている。
実際αだと知らされた人達は氷雨や鳳くんを含め全員美形だし、背丈も俺よりあるしスタイルも良い。
対して俺は背も低いし女顔だし頭脳も運動能力も全てにおいて平凡だ。
周囲の人と比べても自分が優れているとは思えない。
まぁαだからといって全てが優秀とは限らないのだろう。
多分αの中にも優劣があって、俺は劣の方なのかもしれない。
色々と腑に落ちなかったが、自分の性別を認める事にした。
だがその日から、俺の日常は激変した。
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