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9.泉里SIDE

鳳くんと仲直りみたいな握手をして帰宅した翌日。 俺は薬を今迄のに戻して貰った。 制服に着替えて仕上げに昨日貰った香水を足首に付けた。 仄かに香る甘くて清潔な香り。 氷雨も好きそうだな。 氷雨からは優しくて甘い上質な香りがする。 この香りと混ざるとどんな匂いになるんだろう。 逢いたいな。 …………って、あれ? 何だ、どうしたんだ? 突然身体に現れた違和感。 なんか暑くて変な汗が出る。 それに微かだが何か甘い香りがする。 鳳くんに貰った香水に似てるけど、それより強くて濃い甘ったるい香り。 何これ? もしかして俺香水零したのかな? 慌てて確認したが、きちんとそれは机の上にあって安心した。 良かった。 なら、これは一体何なのだろうか。 訳が分からなくて混乱していると 「泉里さんっ」 「泉里大丈夫か?」 担当医と父が慌てて部屋に飛び込んで来た。 2人共真っ青な顔をしている。 「注射しますので其処に座ってくれませんか?」 椅子に座るなりされた注射。 その後体温計を渡されて計ってみたら 「今日は休んで下さい」 38℃もあった。 寝かしつけられ目を瞑ると、ゆっくり薄れ始めた甘い香り。 驚いたけれど、今付けてるのと似てたからか嫌な香りではない。 あれは一体何だったのだろうか。 「あの、さっきのって」 質問しようとしたが 「取り敢えず今は寝て下さい。即効性でキツメの薬を打ちましたからかなり身体に負担が掛かります。睡眠薬を与えますので飲んで下さい」 渡された薬を飲み再び布団に入ると目を閉じた。 夢の中、父が泣いていた。 「恐らく薬の過剰摂取が原因での副作用だと思われます。急な発熱と過剰なフェロモンと香り。もうすぐ発情期に入りますが今回は抑制剤を飲ます事は出来ません。最低1ヵ月は点滴も投薬もしない方が良いでしょう」 「でもそうしたら大変な事になってしまう」 「………そうですね。でも今の状態で無理矢理投薬したら、今後全ての薬が効かない身体になる可能性も出てきます。今現在の状態を抑え込むには国で一番強い薬を投与する必要があります。一度それを投薬したら、今迄摂取していた薬は一切効かなくなると思われます」 「効かなくなったらどうなるんだ?」 「抑制剤が効かなくなったら、フェロモンも発情も抑える事は出来ません。常に周囲に狙われる危険な状態に陥ります。そうなったらもうαだと隠し通すのは不可能です。αと番にさせて落ち着かせるしか最善策はありません」 父と担当医が何か話しているが、内容迄は聞き取れない。 苦しそうな担当医の顔と泣き腫らした父の顔。 「今回は辛いでしょうが、薬なしで発情期を乗り切って貰います。恐らく初めての現象なのでパニックに陥ると思われますが、我慢して下さい」 「その間泉里は大丈夫なのか?」 「いえ、全く大丈夫じゃありません。約1週間発情が続くんです。発散させても発散させても消えない熱が1週間も。泉里さんに経験はありますか?」 「いや、氷雨くんに四六時中見張って貰っているからキスさえまだだ」 「そうですか。なら余計辛いでしょうね。何も知らない状況で発情するのですから。取り敢えずどちらかに決めましょう。部屋に閉じ込めて1人で耐えさせるか、誰か1人相手を決めてその人に発散させて貰うか」 「…………どうにかならないのか?どちらも泉里には残酷だ」 「残念ですが投薬が無理な今、それしか方法が見付かりません」 「氷雨くんは今側に居ないし、私や君ではダメだ。急いで適任者を探そう」 会話は聞こえないが、深刻な話をしているのは分かる。 夢にしてはリアルだ。 少しでも内容を盗み聞こうと試みたが、父が部屋を出た途端深い眠りが襲いかかり、何も見えなくなった。

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