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第6話

「より、ナンパならよそでやって」 「ナンパじゃないし」 誰も俺をナンパしないだろうよ。 「あ、俺4組の佐川でっす。何くん?」 「日高 あおい。佐川 有名人だから知ってる」 「えっマジ俺 有名人?」 「うん」 「煩いって有名だろ」 「あっくん黙って」 佐川くんに『あっくん』と呼ばれたその人は、可愛い呼び名にしてはコワモテだ。 コワモテだけど…カッコいい部類の人だな。 「いや? 賑やかで有名だよ」 「日高くん!? それあんまり変わらなくない!?」 「日高くん面白いな。俺、幡中 純(はたなか あつし)。純って書いてあつし、な」 「よろしく」 「で、そっちが…?」 「あー…と、牧瀬 七織」 あつしくんだからあっくんなのか。 なんて思ってたら突然名前を聞かれて、内心びっくりしながら答える。 「まきせななお…? あ、なぁもしかして、南幼稚園 通ってた?」 「え? あ、うん」 南幼稚園。懐かしい。 って言うか、もしかして同じ幼稚園 通ってたとか…? 「チューリップ組だった?」 「え? うん、チューリップ組。その後ゆり組で、さくら組」 「マジか! 覚えてねぇ? 七織があつしくんって上手く言えなくて、ずっと『あっしくん』って呼んでたやつ! それ、俺!」 「え? え?」 待って待って、確かにいた。 あつしくんって上手に言えなくて、ずっと『あっしくん』って呼んでた男の子、いた! いたけども! 「でも、あっしくんもっと…可愛かった…」 「ぶっ」 「くくっ」 「おいこら、より。日高くんも、笑うな」 あんな可愛かったあっしくんが、こんな…コワモテイケメンになるなんて…。 「マジで…?」 「マジだよ。一緒にプール落っこちて先生に叱られただろうが」 「いやもっと綺麗な思い出持ち出してよ」 でも幼稚園の頃だしな、あんまり色んなこと思い出せない。 佐川くんの友達が、「え、何 知り合い?」「奇遇じゃん」「奇遇なんて言葉よく知ってんな」なんて話をしている。 「めっちゃ懐かしい。高校で幼稚園の時の友達に会えると思ってなかったわ」 「ほんとだね。……めっちゃ変わってるけど」 「いつまで引きずるんだよ、それ」 「だってさぁ! あっしくんめっっっっちゃ可愛かった!!」 「七織、力込めすぎだよ」 あおに突っ込まれた。 「今も可愛いだろ」 「うわ…あっくんそれマジで言ってるならやめた方がいいよ…」 佐川くんガチトーンじゃん。

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