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第23話

「うーんと…サイドだけで…あ、えと、前髪もちょっと入れて欲しいです」 「右? 左?」 「えっとー…左」 「じゃあ左はここから…この辺まで」 綺麗な指が、鏡の中で俺の側頭部をなぞる。ちょっとくすぐったい。 「右はこの辺かな」 「はい」 「じゃあ先にシャンプーして、その後ブリーチしてくからね。仕上がり楽しみにしてて」 「はい」 にこりと微笑む顔は甘やかだ。指名客多そう。なんて、偏見だけど。 それから俺は髪を洗ってもらって、人生初のブリーチをしてカラーを入れてもらった。トータルで1時間以上かかったけど、髪の色変わるの見てて楽しかった。 あっしくんも由音も、いつもこうやって髪染めてるんだな。なんてことを、出してもらったレモネードを飲みながら思った。 「どう? 人生初カラー!」 鏡の中では、前髪の一部とサイドをミルクティーアッシュに染めた俺がこっちを見ていた。後ろにいる美容師さんは満足げに微笑んでいる。 「何かちょっとテンション上がります」 「だよね! 推しの色とか入れに来るお客さんもいるし、まぁヘアケアも大事にはなるけど、色んな色試してみるのも楽しいよ」 友達来てるから見てもらおうよ、と笑う美容師さんに連れられて、待ち合いのスペースへ。 「純、お待たせ」 美容師さんが、雑誌を読んでるあっしくんに親しげに声をかけた。あ、従兄さんてこの美形の美容師さんだったんだ。 「おぉ! いいじゃん!」 「前髪もカラー入れたの? 雰囲気変わる」 「七緒 似合うね、その色」 そう? そうかな? えへへ。 と、お手本のような照れ方をしてしまう俺。 会計を済ませて、皆と外へ出る。外は大分暗くなって、あちらこちらに街灯が点いていた。 「結構待ってもらっちゃったね」 「いいよ。靴屋で遊んでたし」 あおはさらっと言ったけど、靴屋は遊ぶ所じゃありません。 「そうそう、それぞれ似合う靴選んだりして楽しかったよね!」 「よりのセンスのなさが際立って楽しかったよな」 「ちょっとあっくん?」 どうやら、あおならあおに、あっしくんならあっしくんに、由音なら由音に。それぞれ残りの2人が似合う靴を選ぶ遊びをしていたみたい。何それ楽しそう。俺も加わりたかった。センスのない由音の選ぶ靴、見てみたかった。 イケメンなのにセンスないのも親しみやすくて良いじゃんね。俺もセンスないから…。 家に帰ると、俺の髪を見た家族の反応も結構良くて、俺は明日が少しだけ楽しみになった。

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