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魔法のマロウブルー

「えっ、マッキー!」 「えっ、牧瀬!」 翌朝 教室に入ると、樋口さんや既に来ていたクラスメートから驚きの声が上がった。 樋口さんには染めるの言ってあったけど、やっぱり実際見たらそうなるよな。 「おはよう」 「おはよ! いいねぇ! 新鮮!」 「染めたんだ! 印象変わるなぁ~」 「似合うじゃん。それ何色?」 概ね良い反応で良かった。 「これ、ミルクティーアッシュ」 「アッシュいいよな。カッコいい」 「えー、触っていい?」 「いいけど別に変わらないよ?」 樋口さんやクラスメートに髪を触られる俺。こんな経験は初めてかもしれない。 周りがいい反応だと、気持ちも上向く。 「前髪も入れたんだぁ」 「うん」 「前髪に色入ると、また雰囲気違うよねー」 教室にいたクラスメートときゃっきゃしていると、後ろから「おはよう」と声がかかった。 高い可愛らしい声。佐田さんだ。 そのすぐ後から、圭典の声も。 「おはよう、マナミちゃん! 滝島くんも。ねぇ、それより見て! 新マッキー!」 新マッキーって、新しい油性ペンみたいじゃんね。とか思いながら、樋口さんに肩を掴まれてぐるっと反転させられた。 視界に入るのは、仲良く肩を並べた美男美女。あぁ、お似合いだなぁ。って、条件反射みたいに思う。全然心の準備ができてなかったから、胸がズキリと痛んだ。 「お、はよ」 へらりと笑う。ちゃんと笑えてるかな。 「おはよう、牧瀬くん。染めたんだぁ! いい色だね、似合ってる」 「ありがと」 佐田さんの髪は、黒くてサラサラしてる。 「色入るだけでちょっと雰囲気変わるよね~」 「私もちょっと染めたいなー、って思うんだけど、似合うかどうか不安なんだよね」 「マナミちゃんはどんな色でも似合うでしょ。ね、滝島くん」 「うん。似合うと思うけど、俺は今のままでも可愛いと思うよ」 「ふふ、ありがとう」 「ちょっと。さらっと惚気るのやめてー」 圭典と、目が合わなかった。 なに、俺嫌われてるの? 目が合わなかっただけでこんな風に不安に卑屈になる自分が嫌だ。 圭典を好きな自分から、変わろうと思ったのに。 由音の明るさとあっしくんの優しさが恋しくなって、鼻の奥がツンと痛んだ。 逃げ出したい。圭典の前から。 「…っ、俺、ちょっと4組行ってくるね」 誰に、ってわけでもなく断って、俺は教室を飛び出した。

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