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第26話

ふたつ隣の教室に戻ると、あおがつまらなそうにスマホをいじっていた。 「あお、おはよう」 「おはよ。どこ行ってたの?」 「4組」 「あぁ」 あおはそれだけで察して頷いた。 「ちょっと後で話あるから」 「あ、うん」 先生が入ってきて、俺は慌てて授業の準備をして席に着いた。 2人のおかげで落ち着いた心は、授業に集中できるくらいには持ち直していた。圭典の姿を視界に入れると胸はチクりチクりと痛むけど、由音とあっしくんに会う前に比べたら全然。 ホッと息を吐いて、俺は前を向いた。 授業が終わってあおの所に向かうと、なぜかそこに圭典も立っていた。思わず足が止まる。 そんな俺に気づいてか、あおが手招きをするので側に行かざるを得ない。 「…どうしたの?」 圭典と目が合わなかったことを思い出して、またそうなったら辛いからと、俺は最初からあおだけを見る。せっかく2人のおかげで落ち着いたのに、また圭典に乱されるのは嫌だ。 「こいつが的外れな勘違いしてるから、ちゃんと言ってやってよ」 あおがそう言いながら嫌そうな顔をして親指で指し示したのは、圭典。 「え?」 「七織が急に髪染めたのは、佐川たちに変な影響受けたんじゃないか、って。高校生にもなってそんなんあるかよ。七織の母親かっつーの」 「だって今まで髪染めたいとか言わなかっただろ」 「だから佐川たちの影響だって? バカじゃないの? 髪染めんの俺も一緒についてったって言ってんじゃん。七織が染めたくて染めたんだよ。大体、七織が髪染めようが染めなかろうが、圭典には関係ないじゃん。何なの?」 「えぇと…」 あおがご立腹。 じゃなくて、俺はどうすればいいの? 自分が染めたくて染めたんだよ、って言えばいいのかな? そもそも染めなかったのは、圭典が黒髪が好きだから、っていう理由だっただけで。圭典が俺を好きになるわけないから、思いきって違う自分になりたかったから。 「別に、由音たちに何か言われたとかじゃないよ。元々、ちょっと興味あったし、だから。色の相談はしたけど、強要されたとかは絶対ないし。俺が…染めたかったから」 圭典の目が見れなくて、俺の視線は圭典の口元で止まっていた。 あの唇に触れたらどんな感じなのかな、って考えたこともあることを思い出して、胸が少しだけ軋んだ。それは、俺が一生知ることのない感触だから。 嫌だな。新しい自分になりたかったのに、まだ圭典のことを気にしてるなんて。

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