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第29話
ちなみに俺のお腹は硬くはないけど柔らかくもない。普通。これでも小学生の頃は水泳やってたんだけどねっ。
でもあっしくんのあの筋肉だと、ほとんどの女子にお姫様抱っこというやつが出来るのでは…。
そろそろ授業が始まりそうなので、2人とは「また後で」と挨拶して別れ、満足げなあおと教室の中へ戻る。
圭典が、さっきのあっしくんみたいに佐田さんにお腹を触られていた。2人ともふざけてるから笑ってて、体触らせちゃうくらい近い関係なんだな、って思って、俺はまた勝手に落ち込んだ。
あぁもう、本当に嫌だ。こんな自分が。
俺は2人からそっと目を逸らした。
「七織、日高くん、お昼行こ!」
昼休みになると、昨日みたいに由音とあっしくんが顔を出す。
「うん」
頷いて、財布を持つとあおと2人で由音たちの方へ。
「お待たせ」
「全然!」
並んで、他愛ない話をしながら学食へ向かう。今日暑いね、とか、自販機の中身が入れ替わったよとか、本当に他愛ない話。だけど、こういうのって話の中身がどうとかより、誰と話してるかの方が結構重要なんだろうな。
一緒にいて楽しいのが一番だから。
俺にとってのその相手は、今まではずっと圭典だった。もちろんあおも一緒にいてくれたけど、圭典はずっと俺の『特別』だったから。
でも。
今、多分、圭典とこんな風に話はできないだろうな、って思った。今 圭典と一緒にいても、俺はきっと楽しくない。圭典の一挙手一投足を気にして、何もできないと思う。
圭典を好きになる前は、こんなに苦しくなかったのにな。
これ! っていう決定打があったわけじゃなく、圭典との色々な思い出とか、俺が見てきた圭典の色々な表情とか、そういう全てを重ねて、少しずつ好きになっていったんだと思う。
思い出が――共有してきた時間や景色が――積み重なって、何気ない会話とか仕草とか、そんなものまでぐるぐる巻きになって、今の俺の恋心が出来ている。ほどいてしまえたらきっと楽なのに。俺はそのほどき方を知らない。
いっそ嫌いになれたら…、って思ったこともあるけど、無理なことに労力を割かない方がいい。
自然と――いつか、自然とほどける時が、来ればいい。
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