一瞬、何を言われたのか分からなかった。 「…え…？」 「あの、話しかけても素っ気ないっていうか…すぐどこか行っちゃう、から…。その…」 俺は、樋口さんに言われたことを思い出していた。 ――マッキー、マナミちゃん苦手なんかなぁ～、って、ちょっと思ってぇ。 ――マナミちゃん来るとさ、何だろう…ちょっと気まずそう？ 昨日もすぐ席立ったじゃん？ 樋口さんがそう感じたなら、本人である佐田さんだってそう感じたっておかしくないのに。 「…っ、…」 真っ先に思ったのは、『圭典に嫌われたくない』で。ほんと俺のくそやろう。諦めるって決めたのに。何でいつまでも、失くした恋に囚われたまま…。 「そ、んな風に、思わせて…ごめん。俺、あの、友達に彼女できるの初めてで、どうしたらいいのか分かんないのと…その、2人のことはすごくお似合いだと思ってるけど、まだ、ちょっと見慣れないのと…」 淋しい、って言ってもいいのかな。圭典の彼女に。 「…ちょっと、だけ。ほんとにちょっとだけ、淋しかった」 「え」 佐田さんが目を見開く。 「彼女優先なのは、本当に、当たり前だと思う。それでいいと思うし、ただあの、急に、いなくなっちゃったから、ちょっとだけ淋しかった」 「牧瀬くん…」 「でも、もう大丈夫。強がりじゃなくて、本当に。一緒にいてくれる人、できたから。あの…ごめん。態度、悪かったよね」 「っ、ううん！ 私こそ、ごめんなさい。すごい悪い方に考えてて…変なこと言っちゃった」 「ううん。あの、圭典には、淋しいって言ったこと内緒にして。からかわれちゃうから」 嘘だ。もう俺のとこには来ないから、からかわれることなんてない。ただ、佐田さんとの時間を邪魔しようとしてるって思われたくない。そんな風に思わないかもしれないけど、それでも。 俺が笑うと、佐田さんもちょっとだけ笑った。 可愛いな、って素直に思った。性別とかそんなことよりも、俺には到底敵わない。圭典が好きになったのは、この人なんだ。 「でも、あのね。圭典くん、牧瀬くんのこと結構気にしてると思うよ？ 髪の色もね、『俺聞いてない』とか言って、拗ねてたし」 「拗ねはしないでしょ」 「そうかなぁ。拗ねてたと思うなぁ」 あおじゃないけど、自分から離れたくせに、そんな風に言うんだな、圭典は。 俺聞いてないって、だってもう全然隣にいないじゃん。いつもいつも。なのにいつ言えってんだよ。