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第35話
あおが体重をかけてきて、俺は慌てて踏ん張った。素直に甘えられるのがあおの可愛いところなんだよな。
あおいはいつも七織に甘えすぎ、って圭典が不満げに言って、佐田さんが苦笑いで圭典の背中を軽く叩いていた。
それを見て、何て言うか…そういう役目はもう、佐田さんなんだな。って、俺はその時唐突に理解した。
今まで俺がしてきたことだけど、もう、それは全部過去のこと。
圭典は未来を歩いていて、止まっているのは俺だけだった。俺はただ、どんどん先に行く圭典の背中を見てるだけだったんだ。
淋しい。悔しい。悲しい。妬ましい。惨めだ。色んな感情がぶわりと胸に渦巻いて、だけど、あぁもう仕方ないことなんだな、って、諦めだけがぽつんと最後に残っていた。
「…あお」
「何?」
「ありがとう。色々。…多分、あおは知ってて知らない振り、してくれてたんだよね」
「!」
あおが弾かれたように俺を見た。
あんまりにもびっくりした顔をしてたから、俺は思わず笑ってしまった。
「ごめん。きっと、たくさん心配させたよね」
「七織…」
「もう大丈夫。…すぐに、平気にはなれないけど、でももう、ずっとやめたかったから。大丈夫になるよ」
あおは少し黙って俺を見て、「後で話しよ」とだけ言った。そしてまた俺にぎゅーっと抱きついて、
「イタタタタ、ちょっとあお?」
「よし!」
よしじゃないから。
胸の奥が少しだけ痛くて、でもあおの体温が温かくて、ちょっとだけ泣き笑いみたいになった俺を、多分あおだけが知っていた。
授業が全部終わって、由音とあっしくんのクラスへ行く。だけど今日は、あおと2人だけで話をしようと思っていた。
それを2人に話したら、「もちろんいいよ」と快く頷いてくれた。
由音もあっしくんも、きっと何か感じていたんだと思う。2人とも、俺の背中を優しく叩いてくれた。
もしかしたら、由音もあっしくんも、俺の圭典への気持ちに気づいていたのかも知れない。そうじゃないかも知れない。
分からないけど、それでもただ俺を受け入れてくれたことが素直に嬉しかった。
「あお、家来る?」
「んー…、うん。そうしよっか」
家まで、俺たちは言葉少なに歩いた。
この道にも圭典との思い出があって、俺はそれを思い返しながら…ただ、恋の終わりを感じていた。
もう、どれだけ想っても叶わないことだから。これはきっと、仕方のないこと。
胸は痛かった。だけど…自分にはどうにもできないことが確かにあることを、ただ実感していた。
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