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第37話

「…ごめん」 「何で…あおが謝るの」 声は涙で揺れて、ひどくみっともなかった。 「ごめん、七織…。俺、今からすごく最低な話、する」 「え…」 最低な、話。 顔を上げようにも、俺はあおの胸に抱き抱えられてるからそれもできない。ただ黙って話を聞くしかない。 「…俺が、気づいてたように、多分圭典も、うっすらとは気づいてたんだと、思う」 「――っ」 一瞬、頭が真っ白になる。 「俺が前に、圭典は何でも彼女とで徹底してるみたいで変な感じ、って言ったの覚えてる?」 「えっと…うん」 あおの言葉に引き戻されて、俺は慌てて頷いた。 …嘘、圭典にも気づかれてた…? 「あれさ、本人にぶつけたんだ。随分徹底してんな、って。俺は七織の気持ち知ってたし、だから完全に嫌味だったんだけど」 「…知らなかった…」 「七織には、言えないじゃん? それで…その時あいつ、『七織のためだ』って言ったから」 「俺の……ため」 「七織のためならちゃんと自分の口から説明するべきだろ、って言ったら、それだと傷つけるからって。もう既に傷つけてんだよバカ」 俺は、何も言えなかった。 俺のために俺から離れたって…何? 言葉で伝えないなんて、それはまるで『察しろよ』って言ってるみたいで…。 つまり、そういう…こと。 お前の気持ち知ってて離れるんだから、その気持ちは迷惑だって察しろよ。 そういう、こと…? 「っお、俺…っ」 「でも!」 涙がまた溢れてきて、止まらなくなる。あおはそんな俺の頭を抱えたまま、声を上げた。 「そんなのは圭典の勝手なんだよ。七織のためとか言いながら、結局自分のエゴみたいなもんだし。だって言葉でハッキリ伝えないなんて、七織に嫌われたくないからだし。あっちにもこっちにもいい顔したいだけじゃん。…本当に七織のこと思うなら、彼女ができたってちゃんと伝えて、しばらく彼女優先にしたいって言うべきなんだよ。自分から離れたくせに自分の知らないところで七織が変わろうとしたら拗ねるし、だったらそばで見とけよ」 最後は完全に圭典への文句だった。 「……俺、ずっと、圭典の迷惑だったんだ…」 「そんなことない」 「…だって…圭典はほんとは、俺に、察して欲しかったんだよね…? 好きになられても困る、って…」 「七織!」 「だって…」 もう言葉にならなかった。 好きな気持ちを相手に拒否されるのって、こんなに……痛いなんて、知らなかった。

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