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第38話

好きにならなければよかった? そうしたら、まだ『友達』として隣にいられたのかな。彼女ができても、たまには一緒に学校行ったり、お昼を食べたり、一緒に遊んだり、できたのかな。 俺が、圭典を好きにならなければ。 「…あのさ、七織」 あおが俺の背中をゆっくり撫でる。 「誰を好きになるかは、七織の自由だよ。圭典が何か言っていいわけじゃない。それはちゃんと覚えておいて」 とんとん、と。優しいリズムを刻みながら、あおは続けた。 「七織がいたい場所も、自分で選んでいいんだよ。優しくしてくれるやつのそばが居心地いいなんて当たり前じゃん。圭典から離れていいんだよ。あいつが何言っても、選ぶのは七織だ」 うん、と言った俺の返事は、ちゃんと声になっていたかな。 「あと、明日から一緒に学校行く」 「っう、ん…っ」 いつからだっけ。あおが時間ずらして学校行くようになったの。それもきっと、俺が圭典を好きなことに気づいていたから。2人でいる時間を作ってくれてたんだ。 結局それもなくなってしまったけど。 「…ありがとう」 「うん」 あおはしばらく俺の背中をさすってくれていたけど、そのうち「あのさ、」と小さく口を開いた。 「話してくれて、ありがとう」 「…うん。俺も…聞いてくれてありがとう…」 痛くて苦しい。つらくてしんどくて、もうこのまま世界が終わってしまえばいいって思うくらいだけど…これで、ちゃんと区切りをつけよう。 今は全然、圭典を好きになってよかった、って思えないけど、きっといつかそう思える時が来ると思うから。だからそれまでは、たまに思い出して泣くのを許してほしい。 平気になったらちゃんと、失くした恋に蓋をするから。 圭典がいなくても大丈夫になるから。だから。 あおは俺が泣き止むまでただ黙って隣にいてくれた。 小さい頃、1回だけ圭典とケンカして泣いた時も、あおはこうやってそばにいてくれたことを思い出した。俺と圭典のケンカだったのに最終的にはなぜかあおと圭典のケンカになって、「もう圭典なんか絶対七織と遊ばせない!」ってあおが怒ったから、俺から謝って仲直りしたんだった。 そんなことまで思い出して、胸が痛いのになぜか少し、笑えた。 あおはあの頃からずっと、俺の味方でいてくれていることが、素直に嬉しかった。 圭典は隣から失くしてしまったけど、あおが隣にいてくれるならいいや。って、そう思った。

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