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第48話

「だから圭典とは帰らない。あお、帰ろう」 「あ、うん」 あおは2人と同じようにびっくりしてたけど、その表情のまま頷いた。 じゃあね、って背中を向けた俺は、腕を取られて立ち止まる。 「っ、待って。言われたからじゃない。今日は、俺が、一緒に帰りたい」 圭典は一言一言俺に言い聞かせるようにそう言った。その顔は真剣で、俺は何て言っていいのか分からなかった。 困惑が顔に出ていたんだろう。圭典は苦しそうな顔で、「頼む」と言った。 何で圭典がそんな顔をするのか分からない。苦しいのは俺なのに。 「…何で今日?」 やっと昨日、圭典への気持ちに区切りをつけたのに。 うんまぁこれは完全に俺の都合だけど。 「それは…佐川たちとのことも、気になるし」 「俺が誰といようと、圭典には関係ないよね…?」 「ないけど気になる」 「それはずるい」 諦めた途端にそんなこと言わないでほしい。佐田さんがいるのに、そんなこと言わないでほしい。もう何も期待したくない。なのに…まだ、圭典に揺さぶられる。 「そんな顔するくらいなら、最初から手放さなきゃよかったのに。バカじゃん」 あおがそう言って、圭典の頬を引っ叩いた。すごく軽く。ぺち、って可愛い音がした。 「七緒はいつも優しいけど、ちゃんと傷つくんだよ。バカ。自分のしたことちゃんと反省しろバカ。七緒に謝るのが先だろうがバカ」 語尾が全部バカに…。 「言っとくけど、いつだって圭典が七緒の優しさに甘えてたんだからな。最初から最後まで」 「それは…分かってる」 「嘘だね。分かってたらこんな真似できるはずない」 「えぇと…2人は、ケンカしてた、の?」 「違う。圭典が一方的に七緒をたくさん傷つけただけ」 控えめな佐田さんの問いに、あおがズバッと答える。 「…圭典だけが悪いんじゃないけどね」 俺も、向き合ってほしかったって言いながら、伝えることから逃げたから。 俺は弱くて、それで、ずるかった。何も伝えなければ、圭典と一緒にいられると思っていたから。 そんなの長続きするわけなかったって、今なら分かるけど。 「そうかな。ほぼ圭典が悪いよ」 あおは優しい。 けど、そうか。 今日でちゃんと、最後にしようか。 好きになってごめん。困らせてごめん。こんなふうになってしまってごめん。だけど、好きになったことは後悔してないんだ。 それを、伝えようか。最後くらいは、きれいに終わらせたい。なんて、そんなの無理かな。

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