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第49話

「分かった。ちゃんと話をしよう」 多分、こんなふうになってから初めて、俺から圭典と目を合わせた。 好きだな、って思う。でもこれは、好きだったな、にちゃんと変わるはず。だから大丈夫。 「――分かった」 圭典は何かを呑み込むように、返事をした。その声が、ほんの少し、苦かった。 「佐田さん、圭典のこと待っててくれる? そんなに長くならないから」 「え。」 「話したら、納得できたら終わると思うから」 俺がそう言うと、佐田さんは圭典の方をちらっと見てから躊躇いがちに頷いた。 俺たちは昇降口へは向かわずに中庭へ足を向けた。 昼間より少し傾いた太陽に照らされた空気はまだちょっと暑かったけど、木陰はひんやり涼しかった。 「…圭典、気づいてたんだよね?」 「…何を?」 「ここに来てまでそんな言い方する? …いいけど」 俺が言わなきゃ、何も始まらないし終わらないんだな。 「――俺が圭典を好きなこと、気づいてたんだよね」 疑問ではなく、確認。 圭典が苦しそうに目を伏せた。 「――うん」 あぁ。やっぱりそうだったんだ。 「迷惑だった?」 「ッ」 圭典が顔を上げる。その表情は泣きそうで、泣きたいのは俺なのにな、なんて意地の悪い気持ちが顔を出す。 「…ごめんね、好きになって」 「っ、それは…」 「俺から距離をとりたいくらい、だったんだよね。圭典は」 「……」 否定の言葉は、なかった。 分かってたけど、それでもやっぱり、苦しくて悲しくて…本当に、惨めだった。 だけど、これは俺がずっと秘密に育ててきた大事な気持ちでもあるんだ。それを惨めで終わらせたくない。 「俺がちゃんと伝えてたら、圭典は逃げないで向き合ってくれた?」 「…分からない」 「…そう」 泣きたい。だけど泣かない。 「あのね、圭典のこと、好きだったよ。特別になれないのは分かってた。それでも好きだった。どこが、とか、うまく言えないけど」 声が震えていないことに安心する。 「ずっと諦められなくてごめん。困らせて――逃げさせて、ごめん」 「…七緒…」 「俺は意気地なしだけど、圭典も意気地なしだよね。そんなところが、嫌いになれたらよかったって何度も思った。けど、色々絡まっちゃってる気持ちだから…難しいね」 風が吹いて、足元の木陰が揺れる。 「俺ね、圭典が佐田さんといるの見るのがつらかった。無理なのも分かってて、でも、ずっとしんどかった」

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