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第50話

風で葉っぱの擦れる音がして、ひらりと緑の葉が落ちてくる。それは俺のつま先に、音もなくゆらりと着地した。 「圭典を好きでいる自分が、俺は好きじゃなくて、マイナスな感情ばっかりで、やめたかった。好きにならなきゃ良かった、って、本当は何度も思った。だけどね、どんな終わりでも…好きになったことだけは、後悔してない」 俺のつま先から、また葉っぱが風で舞い上がる。 「俺の気持ちは、俺がちゃんと認めてあげなきゃいけなかったんだよね。結果がどうでも、俺にとっては大事な…思い出とか色んなものがたくさん詰まった気持ちだったから」 多分、俺も。同じようにまた舞い上がれるはずだから。 「ごめんね、圭典。もう終わりでいいよ」 「…終わり、って」 「俺から逃げるのも、俺が逃げるのも。どっちも」 「待って、俺は、そうじゃなくて…」 「なに?」 「…迷惑とかじゃ、なくて」 「……」 胸が、一度だけずきりと痛む。 「圭典は、ずるいね。俺の気持ちが嫌で逃げたのに」 「逃げたわけじゃ…! いや、でも結果的にはそうなるのか…」 圭典は上げた視線を落として、唇を噛んだ。 本当は、そこに触れてみたかった。俺はきっとこうやって、ゆっくりゆっくり過去にしていくんだろう。 「…俺、七緒の気持ちは勘違いって言うか、はき違えてるだけなんだと思ってた。俺に彼女ができたら、きっと七緒だって女の子に目が行くようになると思ってた。勝手に」 「…なれなくてごめん」 「違う! 謝って欲しいわけじゃなくて…俺のしたことって、一番最低な方法だったな、って…気づいた。人の気持ちを、俺が勝手に間違ってるって決めつけて、傷つけて…気づいたら、何かさ…びっくりするくらい七緒が遠くに行ってた」 「だって…そうするしかなかったから」 ごめん。って圭典が言ったその声は、何だか泣いているみたいだった。 「いつも俺やあおいの後ろにいたはずなのに、自分でどんどん次の居場所見つけて、俺といた時より楽しそうでどんどん変わってく七緒見てたら…俺だけ取り残された気分でさ」 「…俺ね、圭典と佐田さん見てて、おんなじ気持ちだったよ」 俺の言葉に、圭典がハッと顔を上げた。 ここに来て、初めて目が合った。 「俺だけ取り残されてて、圭典はどんどん先に行ってたんだな、って思ってた。…同じだったんだね」 もっと早く話ができてたら良かったのかもしれない。でもきっと、このタイミングでなければ、俺たちは動けなかった。

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