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第51話

「…七織から素直に甘えられてる佐川や幡中が、羨ましかったし、嫉妬もした。自分で遠ざけておいて、勝手だけど」 「うん。本当にね」 「ごめん。元々傷つけてたのに、八つ当たりしてもっと傷つけた」 「…うん」 「七織がいなくてもいいなんて、思ってない。俺だけ『好き』って言ってもらえなくて、悲しかったし悔しかったけど…自分のしたこと振り返ったら、文句なんて言えないよな」 圭典が淋しそうに、苦く笑う。 「…今もまだ、好きじゃない…?」 「好きじゃないなんて、言ったことないけど。あおよりは、好きじゃない」 「あおいはいつも七織の一番じゃん」 不貞腐れたようなその声に、ただそばで黙っていたあおが得意気な笑みを浮かべた。 「圭典のことは、好きだけど、前と同じ『好き』じゃない。それに今は…由音やあっしくんの方が好きかな」 「は? マジで言ってんの、それ」 「何で急に怒るの…?」 圭典の声のトーンが下がった。 「今日だって幡中に肩抱かれてたし」 「?? いつの話?」 「昼休み。それに、佐川とも体くっつけてベタベタして」 「変な言い方しないでくれる?」 「俺とはそんなの全然なかったじゃん! 何でそんなにすぐ仲良くなってんだよ。警戒心どこ?」 どこ、と言われても。 「何で警戒しなきゃいけないの? それにあっしくんとは、幼稚園から仲良かったし」 「でも佐川は違うじゃん」 「由音は、だって優しいし、楽しいし」 俺が言うと、圭典はぐっと言葉を呑み込んだ。 「ぐうの音も出ないね〜、圭典」 「出・る!」 「あおだけじゃなくて2人が優しくしてくれたから、苦しいのとか、越えて来れたんだよ。悪く言うのやめて」 その言い方はずるかったかもしれないけど、圭典は悲しげに顔を歪ませて、「ごめん」とだけ言った。 「これからだって、俺は由音とあっしくんといるよ。一緒にいるの好きだから。圭典だって、種類は違うけど佐田さんといるの『好き』だから一緒にいるんでしょ?」 「……うん。そうだな」 「さっきも言ったけど、先に手放したの圭典だからね。しっかり後悔しな」 「…あおい、うるさい」 「は? 圭典の方がうるさい。七織、こんなの放っといて早く帰ろう」 あおに手を引かれて、今度こそ俺は圭典に背中を向けた。振り向いて軽く手を振ると、圭典は何だかとても苦い表情で同じように手を振った。 ――これで、良かったのかな。

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