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第53話

俺があおみたいに言いたいことを素直に言えていたら、こんなに拗れたりしなかったんだろうなぁ…。でもそれは、ないものねだりだって分かってるから。 これから変わるしか、ないよね。 「じゃあ、あおいは誘わないで七織だけ誘う」 「来てもらえると思ってんの? 自信過剰」 スパッと切り捨てるあおの言葉に、苦笑いが浮かぶ。でも圭典と2人ってなると…前は嬉しかったけど、今は少し…切なくなる。 「遊ぶなら、あおも一緒がいいな」 「俺と2人は嫌?」 「嫌って言うか…ちょっと、まだ、しんどい」 俺の正直な言葉に、圭典がそっと息を呑んだのが分かった。 「無神経男」 「あおい、うるさい」 ちゃんと理解はしてる。気持ちの整理もしたし、平気かなって思うけど、まだ少しだけ苦しくなる。『好き』って、スッパリやめられるものじゃないから。 「あおも一緒に行こうよ」 「七織が言うなら圭典が嫌がっても行くよ。で、どこ誘ってくれんの?」 「え、あ、じゃあ…水族館とか?」 水族館…。 圭典と、行ってみたかった場所。でも、今は―― 「別のところがいいな…」 圭典とじゃなくて、別の誰かと行きたい。 その『誰か』は、まだ誰もいないんだけど。 「じゃあ映画は?」 「うん。いいよ」 「明日は無理だけどね。俺たち遊ぶ約束してるし」 明日は、由音とあっしくんと一緒に遊ぶ日。楽しみだな。 「来週は?」 「来週は俺がダメ」 「じゃあその次か…来月だな」 「来月の方がいいかも。俺、髪染めたりしたし」 余った分いつも貯めてあるとは言え、明日も遊ぶしなぁ。お小遣い貰ってからの方がいいかな。 「じゃあ来月。観たいのあったら教えて」 「うん」 「俺ホラーがいい」 「あおいじゃなくて七織に聞いてんだよ」 「狭量」 「は?」 まぁ何にせよ、あおと圭典が前みたいに戻れて良かった良かった。 久し振りに3人で電車に乗って、前みたいにとはいかないまでも、話をする。俺の胸は時々思い出したように痛くなったけど、俺はその痛みをそっと撫でた。これは俺にとって大事な痛み。必要な痛みだ。 圭典は学校の最寄り駅で佐田さんと合流したから、そこからはあおと2人で行く。 佐田さんには、「仲直りできたんだね」って言われたけど…仲直りとはちょっとちがうから、俺は曖昧に笑っておいた。まさか、圭典のことがずっと好きだったんだよね、なんて言えない。

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