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第54話
「おっ、七織と日高くんじゃん」
「おはよ」
駅前の噴水の広場に、由音とあっしくんが立っていた。
「おはよー」
「おはよう、ふたりとも。何してるの?」
由音の華やかな笑顔に、あっしくんの優しい穏やかな笑顔に、ホッとする。
「昨日可愛い犬の動画見つけてさー、今あっくんと見てたの」
由音がそう言って、俺たちにも動画を見せてくれた。
「佐川、犬好きなんだ」
「うん。猫も好きだよー。けど妹が動物アレルギーでさ」
「妹いるの?」
「そこ? いるよ。何なら弟もいる」
「えっ! 1番上なの?」
「日高くん、そんな驚く…?」
由音はお兄ちゃんなんだ。
「幡中は?」
「俺は真ん中。上に兄で下に妹。日高くんは?」
「俺は、10離れた兄が1人」
「七織はー?」
「俺もお兄ちゃんいるよ。大学生で県外だけど」
「『お兄ちゃん』って呼び方いいなぁ。うちなんて、妹も弟も『兄』って呼ぶからね」
由音は不満そうに言うけど、顔が笑ってるからきっと仲がいいんだろうなぁ。
なんて、思っていたら、あっしくんがふと俺を見て口を開いた。
「七織、今日は何となくすっきりした表情してるな」
俺は思わず泣き出しそうになった。
――良かった。自分がそう思ってるだけじゃなくて、ちゃんと進めていたんだ。
「――うん。昨日ね、振られたんだ。ずっと好きな人がいたんだけど、区切りつけてきた」
「…そっか。偉かったな」
「そう、かな。…ありがとう」
由音とあっしくんの手が伸びてきて、俺を励ますように優しく背中を叩いた。
「明日は目一杯遊ぼうね」
「うん!」
この痛みを無理になくすんじゃなくて、色んなことをして昇華していこう。あの頃圭典のことが好きだったな、懐かしいな、って思い出せるように。
「でもさぁ、相手は見る目ないね。七織は一緒にいたら癒されるし楽しいのに」
由音がそう言うと、あおが「ほんとだよね」って呆れたように口にした。
「ありがと。好きなタイプとか、色々あるからね」
そもそも俺は、圭典にとって同性だしな。異性だったら友達にもなれてなかったかもしれないから、これで良かったんだと思う。
「七織の好きなタイプってどんな?」
「え? 俺?」
タイプ…。自分で言っておいて咄嗟に出てこない。
「うーん、と…一緒にいて自然と笑える人がいいかなぁ。変に緊張するのも嫌だし」
「あー、分かる」
「由音は?」
「俺は…周りがどうこうよりも自分が『可愛い』って思う人かな」
「よりはいつも直感だな」
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