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第55話

「直感かぁ」 「直感大事だよー? 日高くんは?」 話を振られたあおは、俺も?みたいな顔をしたけどちゃんと答えてくれた。 「居心地がいい人。幡中は?」 「いい意味で気を遣わないでいられる人かな」 「やっぱ一緒にいてどうか、って大事だよね」  「だな」 他の誰かを好きになれてたら…圭典との関係は変わらなかったのかな。そんなこと考えたって仕方ない。俺は現実を受け入れて前に進むしか出来ないんだ。自分でも、前に進みたいと思うから。 「ま、つらい思いした分だけ次はきっと嬉しいことがいっぱいになるよ」 「そうなるといいな…。ありがとうね、あお」 思えば、あおにはずっと助けてもらって気を遣ってもらってきた。感謝しないと。いつだって励ましてくれるのはあおだったから。  「七織はさぁ、いつも俺が何かしてると思ってるけど、違うからね? 俺は今まで七織がしてくれたことを返してるだけだから」 「そうなの?」  え。ってか俺なにした? 「そうだよ」 でもあおはそれ以上話すつもりはないらしく、今日のお昼は何食べようかな、って話をしていた。 学校に着いても何となく4人で廊下で話をする。そんな俺たちを横目に圭典は佐田さんと教室へ入って行った。 ホッとしたような、淋しいような。 少し泣きたくなって、俺はそっと息をついた。 恋の終わりは淋しい。でも、それもいつか思い出になる。 ぎゅっと苦しくなった胸を撫でて顔を上げると、由音とあっしくんが俺を見ていた。思わず目を瞬かせる俺に、2人はちょっと笑った。 …やっぱり、2人も気づいてたのかな。俺が圭典を好きだったこと。 俺は、こうやって俺を見てくれた2人に、この1週間だけで何度も救われて、元気をもらってきた。 素直に、会えてよかったと思う。 恋を失くしても、違うものを得ることができたから、これはこれでいいんだ。 そばにいてくれるのが圭典じゃなくても、いいんだ。だってちゃんと楽しいし、2人のことがあおと同じように好きだと思うから。 「由音」 「なに?」 由音が軽く首を傾げて俺を見る。その目がキラキラしてて、きれいだな、と思った。 「あのね、俺に声かけてくれて、ありがとうね」 「うん? どういたしまして!」 急なお礼に由音は一瞬きょとんとしたけど、すぐにパッと明るく笑った。 「あっしくんも」 「俺?」 「うん。俺のこと、気づいてくれてありがとう」 あっしくんは、どういたしまして、と柔らかい声で言って穏やかに微笑んでくれた。

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