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第56話
今まで圭典にこだわっていた時間を、もっと別のことに使ってみよう。
失くしたものを振り返るより、これからのことを考えていきたいから。
2人とお昼を一緒に食べる約束をしてからあおと教室に入ると、樋口さんが何か言いたげな顔をして俺を見ていた。
「おはよう、樋口さん。どうしたの?」
「おはよ、マッキー。昨日、マッキーと滝島くん、ケンカしてるっぽかったからさぁ」
「あれはケンカって言うか、そう言うんじゃないけど…まぁ、解決はしたよ?」
「マッキーはちょっとスッキリした顔してるけど、滝島くんはマッキー見てるよぉ?」
「まぁ!」
近所のおばちゃんみたいなリアクションしちゃった。
それで気づく。俺、昨日まではいつも圭典のこと見てたな、って。すぐに圭典を見つけて、その姿に一喜一憂してた。今日が――たまたまかも知れないけど――そうじゃないことに、あぁ良かった、と思った。
俺、ちゃんと前に進めてる。多分。
「でもなぁ…マッキーと滝島くんでしょ? こんな言い方したらいけないけど、ほんとにケンカだったら滝島くんの方が悪いんじゃないかって思うよねぇ〜。マッキーって健気だしさぁ」
「それは言い過ぎだって。それに、全然健気じゃないよ」
だって気持ちはもうぐちゃぐちゃで醜かった。嫉妬もたくさんした。
好きな人が好きな人と幸せになって欲しいなんて、そんな風に思えたことなんて一度もなかった。俺じゃないことが当たり前なのに、悔しくて妬ましくて堪らなかった。
「でも淋しいの我慢してたでしょ〜? 話してくれたじゃん?」
「あー…うん。そうだね」
「その淋しさ埋めてくれたのは他のオトコだもんねぇ〜」
「ちょっと樋口さん、言い方」
誤解を招くよ、それは。
「滝島くん、佐川や幡中くんに嫉妬してたり?」
「それはないよ」
実際あったけど。昨日圭典から聞いたもんな。
「マッキーを取り合うイケメン3人っていい構図なのに〜」
「誰が得するの? それ」
そもそも取り合われないし。圭典に至っては佐田さんいるし。3人に失礼。
「あ、でも日高くんがいるねぇ〜。これは日高くんのひとり勝ちだねぇ」
樋口さんはひとりでウンウンって頷いてる。俺の声は届いてそうで届いてなさそうだから…まぁいっか。
声が聞こえたのか、あおが『俺が何だって?』みたいな顔でこっちを見たけど、何でもないよとジェスチャーで伝えておいた。何か…説明が、上手くできないもん。
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