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第59話
突き放すでもなく、邪険にするでもなく、何てことないような口調であおが言った。
「圭典のこと知りたいのは分かるけど、七織が絡んでるんだから圭典だけのことじゃないでしょ。知ろうとするのは七織にも失礼だと思うな」
「……」
佐田さんがちょっと不満そうな顔で黙った。
美少女はどんな表情でも可愛いんだな。
「…日高くんって私のこと嫌いだよね」
「は? 別に好きでも嫌いでもないけど」
「いつも冷たいもん」
「あおいは大体誰にでもそうだよ。俺にも冷たいし。気にしなくて大丈夫だよ」
圭典、それはフォローになってる?
「ほら、向こう行って食べよう?」
圭典が優しく佐田さんの背中を押す。ここにいたらとんでもないことになるのを察知したんだろう。
「牧瀬くんは教えてくれるよね?」
「ごめん。言いたくない」
考えるより先に言葉が出ていた。
「個人的なことだし、それに、圭典と2人でちゃんと解決して終わったことだから」
「…本当に終わったの?」
「え?」
「だって圭典くん、今日は牧瀬くんのことすごく気にしてる。終わったなら何で?」
「それは、だから、俺が七織に酷いことしてたから。終わったことだけど、悪かったなって思ってるからだよ」
もういいよな?って感じで、圭典が再び佐田さんの背中を押して促した。
何か佐田さん、今日はやけに食い下がってくるな…。あおは面倒臭いって隠さず顔に表してたし、由音もあっしくんも、冷めた目で佐田さんを見ていた。
「酷いことって何?」
「それは言えない。言いたくない」
「何で?」
「どんなに親しくても言いたくないことのひとつや2つ、誰にでもあるだろ? 俺と七緒のことだから、他の人には関係ない」
「関係ないって何? ひどい」
「痴話喧嘩ならよそでやってくれる?」
迷惑そうに言ったのは、あおじゃなくて由音だった。由音もそんな嫌そうな顔することあるんだな、って思うくらい、『嫌』を全面に出した表情をしていた。
「彼氏が嫌だって言ってんだから引きなよ。自分だって全部何もかも話してるわけじゃないでしょ」
由音のその言葉に、佐田さんは悔しそうに唇を噛むと、「知らないっ」と言って中庭を出て行ってしまった。
「ごめん。悪かった」
でっかいため息の後、圭典が申し訳無さそうに言う。
「圭典のせいじゃないから大丈夫だよ」
これしか言えない。
「っていうか、佐田さんってあんなだった…?」
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