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第62話

佐田さんが、ぎゅっと唇を噛む。 「俺はあの、伝えるのそんなに上手じゃないからうまく言えないかもだけど、圭典が佐田さんと一緒に行動するようになった時、前も言ったけどちょっと淋しかった」 圭典が、ハッとしたように俺を見た。 「でも、仕方ないなぁ、っていうのが1番大きかった。佐田さん、可愛いし。圭典だって、彼女が誰かにちょっかい出されたら嫌だもんな、って。ずっとそう思ってたんだけど、そう言えば圭典もカッコいいもんね。佐田さんだって不安なこともあったよね」 「…『そう言えば』…?」 圭典はちょっと黙っててほしい。 「好きな人のこと、知りたい気持ちも、分かる。俺もそうだったし。色んなこと考えて、嫉妬しちゃうのも…限度はあるけど、分かるよ。相手が俺なのが、ちょっと笑っちゃうけど」 佐田さんが俺を見た。その目が少し困惑していて、少しだけ潤んでいた。 「でもね、どんなに好きでも、どんなに近くても、話せないこととか話したくないこととか、秘密って誰にでもあるんじゃないかな。そういうのも、その人の魅力のひとつだと思うし」 「…っ」 「えぇと、こちらからは、以上です」 現場取材してるリポーターみたいになっちゃった。 「…私、今までの彼氏、嫉妬深いのが理由で、振られてるの」 佐田さんが俯いたまま、呟くようにそう言った。 「男友達にも妬くなんて変って言われて。だから今度は、そういうのやめたくて…我慢、してるつもりだったけど…」 「がっつり束縛してんじゃん」 あおがぶった斬った。 「だって、私のこと見てほしいのに、圭典くん最近ずっと牧瀬くんのことばっかり気にしてる」 「それは…」 「私の言う通りにしたこと後悔してるんじゃないか、って思ったら止まらなくて…」 「…正直、後悔は、した。けどそれは、自分のせいだから」 佐田さんは泣きそうな顔で圭典を見上げて、圭典は痛みを堪えるような表情で佐田さんを見た。 「七緒のことは大事。だけどそれは、友達としてだから」 …俺、これで2回振られてない? ひどくない? 「日高くんは…?」  「あおいは俺に特別冷たい」 圭典、真顔で…。 「優しくする必要がない」 「ほらな?」 ほらな?じゃないよ。 「圭典が七緒のこと気にしてたのは、自分が知らないうちに他の人に懐いてたからだよ。佐田さん優先してる間に、七緒が変わってったから。残念。過ぎた時間は戻ってこないしね」 「ほらな!?」

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