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第64話

あおがちょっと強い口調で言うと、佐田さんはぐっと押し黙って頷いた。 俺、そんなに優しくないと思うけどな。 「七織が許すなら、俺はこれ以上何も言わない」 あおはそう言って、さっさと教室へ入って行った。俺はその背中を見てから佐田さんを見た。佐田さんもこっちを見ていて、目が合った。 どう足掻いても、俺が絶対に敵わない相手。そんな相手から嫉妬されてたなんて、すごく変な気分。でも、全然嬉しくはないな。圭典の気持ちは俺には向いてないから。 友達って、ハッキリ言われたし。 「俺、圭典がいなくてももう淋しくない。大丈夫だから、2人で仲良くね」 全部が強がりじゃない。淋しくないのは本当。だけど少し、ほんとに少し切ないのも本当。 「牧瀬くん…」 「…七織に振られた」 圭典が振ったんだよ。 「圭典がやなやつだって最近よく分かったから」 「は? ちょっとそれどういう…」 「さよなら」 「ちょっと!?」 圭典くん、牧瀬くんに嫌われてない…?って心配そうな佐田さんの声を背中に、俺も教室へ。 「嫌われてはない! …多分!!」 圭典が廊下ででかい声出してる。 嫌ってはない。けど、腹は立ってる。今まで避けられてたんだから、ちょっとくらい冷たくしたって許されると思う。 「牧瀬くんに嫌われるって、私が言うのもどうかと思うけど…多分、相当だよ…? 私のこと一度も責めなかった牧瀬くんだよ…?」 「追い打ちかけるのやめて」 「圭典こっち来るのやめて」 「七織!?」 滝島なにしたんだよ。って圭典が周りにいじられてるのを、あおはニヤニヤしながら眺めていた。 「いい傾向じゃん」 「そうかな」 「そうだよ。七織はずっと圭典に遠慮してたって言うか…本当はもっと言いたいことあるんじゃないのかな、って俺はずっと思ってたよ」 「そうなんだ…」 知らなかった。今までずっと、圭典に嫌われたくないのは1番にあったからなぁ。今だって嫌われてもいいとは思ってないけど、もう振られたんだし――しかも2回も――圭典にどう思われるかを気にする必要なんて、ない。 今になって、俺はやっと安心して息ができるようになったのかも知れない。 嫌われたらどうしよう、呆れられたらどうしよう、とか…そんなことをいつも気にしてた気がする。だから余計に苦しかったのかな。 俺は、圭典に振られて良かったんだ。そうじゃなきゃ、ずっと恋心で自分をがんじがらめにしたままだった。

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