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第71話

――このままバイバイするの、淋しい。 俺は不意にそんなことを思う。 でも、それはワガママだし…。駅からのアクセス抜群なのはいいことなのに、今はそれが恨めしい。すぐに駅に着いてしまう。 「楽しかったねぇ。こんなに体動かしたのすごい久々〜」 由音がぐいっと大きく伸びをしながら言う。 「思いっきり体動かしたら何か色々スッキリしたかも」 「日高くん、嫌なことでもあったの?」 「うん。圭典のことで」 あおが真顔で答えるから、さすがの由音もどう反応していいか分からない顔してる。 「そうなんだね…?」 「健全な発散の仕方だな」 「そっか。そうだね」 あっしくんに言われてあおが頷く。俺もちょっと、スッキリしたかも。 「で。この後どうする? どこか寄ってく? 帰る?」 由音が俺たちを振り返る。 まだ一緒にいたい、って素直に言ってもいいやつ…? 迷惑じゃないかな…? 「七織、どうする?」 「え、っと…もうちょっと、一緒にいたいかな…なんて」 「よっし。じゃあとりあえずそこ座って色々見てみよ!」 由音はあっさり頷いて、噴水広場のベンチへ足を伸ばした。 何だ。色々面倒なこと考えなくて良かったんだな。ちょっとホッとして、俺はみんなを追いかけた。 「あ、文化センターで市民写真展やってるって。入場無料」 「2階の美術館って常設展はタダで入れたよね」 「駅にも色んなポスター貼ってあったな、そう言えば」 由音がスマホをすいすい操作しながら、色んなイベントを読み上げていく。 「あっ、モールでパンフェスタやってる!」 「今めちゃくちゃ混んでるんじゃない? 昼時だし」 「それもそうだね。午後はマジックショーあるって。観覧無料」 「楽しそう…」 「ちょっと行ってみよっか。1時からだから…まだ時間あるね」 「ゲーセンの前にソファーあったじゃん。そこで時間潰しててもいいかもな」 「よし、行こう」 …俺が決めてしまって良かったのか謎だけど…。 モールに向かって出発。 パンフェスタ開催中なだけあって、1階の広場は混雑していた。パンのいい匂いするなぁ。 そこを素通りしてゲームコーナー前の通路にあるソファーに座ってのんびりしていると、スマホが鳴った。俺のじゃない。 「あ、ごめん。俺」 由音がそう言ってスマホを見た途端、嫌そうな表情に。 「…母親と妹が、モールでパン買って来いって…」 「それは…」 あの人混みに突っ込むの…?

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