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第72話
もう絶対そんなに残ってないって…、とぼやきながらも腰を上げる由音。えらい。
「ちょっと行って来んね」
「…俺も行ってみようかな」
そう呟いて、あおも腰を上げた。
「えっ、ほんと!? 一緒に突っ込んでくれる?」
「身長的に佐川を盾にするけどね」
「まじかぁ…」
俺はあっしくんと一緒に2人を見送る。マジックショーまでにはまだ結構時間あるし、大丈夫だろうな。
「疲れたな、ちょっと」
「うん。でも楽しかったよ。あおと2人だと、あんまり行かないから」
あんまりっていうか、全然だけど。何となく、ああいう所は人数いた方が楽しいかな、って。
「日高くんとだと、どんな感じ?」
「んー、映画とか、モールぶらぶらしたりとか。あとはお互いの家でマンガ読んだりとか、かなぁ。家近いから、一緒に公園に散歩行ったりもする」
「七織ん家、近くに広い公園あったな、そう言えば」
あっしくんが思い出したようにそう言った。
「一緒に遊んだよね! ブランコの漕ぎ方あっしくんに教えてもらったもん」
「七織は砂遊びが好きだった」
「懐かし。トンネル作ったりしたねぇ。あっしくん、昔はあの辺に家あったんだっけ? 小学校上がる時に引っ越したんだよね? 確か」
小さい頃のことだから、記憶が曖昧だ。あっしくんの家にも遊びに行った記憶があるけど、場所までちゃんと思い出せない。
「郵便局の近くにマンションまだある? 前はあそこに住んでたな」
「あっ、ある! そっか、あそこだったんだ…」
「引っ越したのは、そうだな…小学校上がる時だな。母親の実家の方に」
「お父さん、県外の人なんだったっけ?」
「よく覚えてんな。そう、長崎」
「遠いねぇ…」
長崎か。カステラ食べたい…。
「そうだ、同じ小学校行かれないの?って泣いたの思い出した…」
俺が言うと、あっしくんが小さく笑う。
「そんなこともあったな。…七織って、小さい頃から素直だったんだな」
「素直、かなぁ。今でも…」
「と、俺は思うけど。自分だとそうじゃねぇの?」
あっしくんに聞かれて、考える。あっしくんの声は穏やかで、耳に心地良い。
「…何かね、嫌われたくない人が、いて。今は全然、そんなこともないんだけど。その人にどう思われるかとか、色々ずっと気にしてたら…何を言っていいのか、どんな反応したらいいのか、分かんなくなっちゃった。そういうのに気づいたのは、ほんとに最近なんだけど」
あっしくんは、黙って俺の拙い話を聞いてくれた。
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