74 / 99
第74話
「七織は買わなくていいの?」
由音に聞かれて考える。
「さっきポスター見たら、好きなお店も出てるみたいなんだけど…あんなに混んでると気持ちが無理だよね」
人混み苦手。というか、流されちゃうからあおみたいに上手く縫っていかれない。
「分かる。挑んだ俺を褒めてほしいもん。成果ゼロだけど」
「でもちゃんと買いにいくあたり、優しいよね。由音は」
「そうかなぁ? 俺はそう言ってくれる七織の方が優しいと思うな」
「そうかなぁ?」
2人で顔を見合わせて、同時に吹き出す。ホッとできるこういう瞬間が、好きだと思う。
「体、平気? 疲れたよね」
「疲れたけど、楽しかったよ。普段そんなにたくさん運動しないから。由音はあっしくんとも行ったりするの?」
「あっくんと2人だと、どっちかの家でゴロゴロしてる。俺あんまり…大勢でわいわいとか、嫌いじゃないけど…それが続くと何か疲れちゃうなー、って」
「そうなんだ」
何となく、由音のこと誤解してたかも?
「俺割とほら、騒がしいって言うか、そういうイメージ? まぁ確かに騒がしい時はあるけど」
「静かにいたい時もあるよね」
「うん。七織と日高くんはおっとりって言うか、和やか?穏やか?だから、結構好きなんだよね。一緒にいるの」
「ありがと。俺も、由音とあっしくんといるの、好きだよ」
「相思相愛じゃん!」
「あははっ、そうだね」
俺は――由音は知らないけど――由音の明るさに何度も救われて、圭典がいなくても大丈夫って、そう思えるようになっていけた。
圭典以外の居場所をくれたのは、由音とあっしくんだもんな。
「…俺、ちょっと前に大事な居場所失くしちゃってね、落ち込んでた時、由音が声かけてくれたんだ」
「…そうだったんだ。俺、無神経じゃなかった?」
「ないない」
由音の慌てた表情に思わず笑う。無神経どころか、結構救いだったもん。
「何も知らないでいてくれたから楽だったし、由音もあっしくんも、察しても何も言わないでいてくれたのが、すごく嬉しかった。し、何かね…2人がいてくれたから、失くしても大丈夫って、思えたんだよ」
「…七織はさ、強いよね」
「そんなことないよ。全然」
「そうかな」
由音が俺を見て、柔らかく笑う。
「一人で抱えるのって、結構しんどいと思う。俺は多分、無理で、全部あっくんにぶちまけちゃう」
何となく想像つくよ、って言ったら失礼かな? でも何となく想像できる…。由音にとってのあっしくんは、俺にとってのあおなんだろうな。
ともだちにシェアしよう!