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第74話

「七緒は買わなくていいの?」 由音に聞かれて考える。 「さっきポスター見たら、好きなお店も出てるみたいなんだけど…あんなに混んでると気持ちが無理だよね」 人混み苦手。というか、流されちゃうからあおみたいに上手く縫っていかれない。 「分かる。挑んだ俺を褒めてほしいもん。成果ゼロだけど」 「でもちゃんと買いにいくあたり、優しいよね。由音は」 「そうかなぁ? 俺はそう言ってくれる七緒の方が優しいと思うな」 「そうかなぁ?」 2人で顔を見合わせて、同時に吹き出す。ホッとできるこういう瞬間が、好きだと思う。 「体、平気? 疲れたよね」 「疲れたけど、楽しかったよ。普段そんなにたくさん運動しないから。由音はあっしくんとも行ったりするの?」 「あっくんと2人だと、どっちかの家でゴロゴロしてる。俺あんまり…大勢でわいわいとか、嫌いじゃないけど…それが続くと何か疲れちゃうなー、って」 「そうなんだ」 何となく、由音のこと誤解してたかも? 「俺割とほら、騒がしいって言うか、そういうイメージ? まぁ確かに騒がしい時はあるけど」 「静かにいたい時もあるよね」 「うん。七緒と日高くんはおっとりって言うか、和やか?穏やか?だから、結構好きなんだよね。一緒にいるの」 「ありがと。俺も、由音とあっしくんといるの、好きだよ」 「相思相愛じゃん!」 「あははっ、そうだね」 俺は――由音は知らないけど――由音の明るさに何度も救われて、圭典がいなくても大丈夫って、そう思えるようになっていけた。 圭典以外の居場所をくれたのは、由音とあっしくんだもんな。 「…俺、ちょっと前に大事な居場所失くしちゃってね、落ち込んでた時、由音が声かけてくれたんだ」 「…そうだったんだ。俺、無神経じゃなかった?」 「ないない」 由音の慌てた表情に思わず笑う。無神経どころか、結構救いだったもん。 「何も知らないでいてくれたから楽だったし、由音もあっしくんも、察しても何も言わないでいてくれたのが、すごく嬉しかった。し、何かね…2人がいてくれたから、失くしても大丈夫って、思えたんだよ」 「…七緒はさ、強いよね」 「そんなことないよ。全然」 「そうかな」 由音が俺を見て、柔らかく笑う。 「一人で抱えるのって、結構しんどいと思う。俺は多分、無理で、全部あっくんにぶちまけちゃう」 何となく想像つくよ、って言ったら失礼かな? でも何となく想像できる…。由音にとってのあっしくんは、俺にとってのあおなんだろうな。

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