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スウィート•チェリーティー

「もしもし?」 『あ、七織? 今電話大丈夫?』 「うん。どうしたの?」 電話の向こうで、由音が少しだけ沈黙した。 『…あの、ちょっと、話したいことがあって。午後、時間もらってもいい?』 「え、あ、いいけど…」 改まって、なその感じに、何となく緊張してしまう。 「えっと、どこ行けばいい?」 『あー…駅前の、噴水の所。昨日と同じ場所で』 「分かった。ごはん食べてからでもいい?」 『もちろん。ゆっくり食べてきてよ』 由音が笑う気配がした。それが何となくどこかで感じたのと似ていて、俺はひとり首を傾げる。どこでだったっけ? 『今日なに食べるの?』 「今日はパン。パン屋さん行ってきた帰り。由音は?」 『炒飯作ろうかな』 「いいね。ってか、料理するんだ」 『簡単なのだけね。じゃあ、また後で』 「うん。またね」 話したいこと、か。 何だろう…。 歩いてた足が止まっていたことに気づいて、また歩き始める。 何か…緊張しちゃうな。由音と二人って、今までなかったかも…? 昨日ちょっと二人だけだったけど。 若干そわそわする気持ちを抑えて家へ帰ると、俺は何となく、本当に何となくだけど! 服を着替えることにした。いやだってほら、Tシャツちょっとよれてるし? 「何で着替えたの?」 「午後出かけることになって」 「あ、そう。気をつけて行ってきなさいね」 「うん」 案の定母さんに突っ込まれたけど…受け答え不審じゃなかったよね…? 食事を終えると、俺は家を出た。 日曜日の昼間。電車はすいている。空いている席に座って、俺は意識して景色を見ていた。心がちょっとまだ落ち着かない。それは多分、昨日――。 アナウンスが流れて、俺はハッとする。顔を上げれば、電車が駅のホームへ滑り込むところだった。降りなきゃ。 階段を下りて改札を抜ける。駅前広場に出ればもう、由音は噴水の近くのベンチで待っていた。 「ごめん。お待たせ」 「いいよ。俺が急に言い出したことだし、気にしないで。ちゃんとごはん食べてきた?」 「うん。食べたよ」 食べたけど…本当は由音が気になって、あんまり食べられなかった。俺よりじいちゃんの方が食べてたかも知れないもん。 「あの、ごめんね、急に」 「だ、大丈夫! 今日ゴロゴロしてたし」 言いながら、由音の隣に腰を下ろす。何か、やっぱりちょっと、緊張してるかも…。 俺の視界の隅で、由音がぎゅっと両手を組むのが見えた。 「あのー…俺、隠しておくのとか、結構苦手で」 「うん」 …何の、話だろう。

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