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第80話
「えっと、変な風にバレたり勘違いされたりするのが嫌なので、もう言ってしまおうという結論になりまして」
「はい。」
何で敬語? って突っ込む気持ちもどこかへ行っていた。
「無理だったら、ほんとに無理って言ってくれていいので」
「う…?」
どゆこと?
「あの、七織のことが、好きです。…ラブの方で」
「――っ」
俺は多分、目も口も、ぱかりと開いていた。と、思う。由音がちょっと吹き出したから。
少し恥ずかしくて口をそっと閉じる。由音はうっすら赤く染まった目尻のまま、笑ったのを誤魔化すように咳払いした。
「困らせるかなー、とは思ったんだけど、黙ってるの無理だなって。多分、態度に出ちゃうだろうし。例えば俺が素っ気なくしたら、七織は理由も分からないまま傷つくかな、とか…色々考えちゃって」
「うん、多分…そうなる」
「あっくんに相談したら、そうなる前に言った方がいいって言われて。俺も、そう思ったし」
「あっしくん…知ってるんだ。あおも?」
「うん。日高くんには、昨日話した。滝島とのことで、七織は色々…あったでしょ? だからそんなすぐじゃない方がいいのかも、って思ったんだけどね」
そっと視線を外した由音の頬が赤い。その熱が、じわりと俺に伝染した気がした。
「でも、滝島が七織のこと気にしてたし」
「あれは…圭典は、俺のこと好きじゃないから」
「そう、かな。…うん、七織が言うならそうなんだよね」
由音が目を伏せる。まつ毛長いな、って、関係のないことを思う。
「あの…その、何で、えっと…俺、何で…好きになってくれたの…? 全然、いいとこ、ないのに」
俺が言うと、由音はそっと俺の頬に手を伸ばした。そして、優しくだけど、頬を摘む。
「俺の好きな子、悪く言うの禁止」
「…っ」
ストレートな言葉に、パッと顔が熱くなる。
「だって…」
「最初は、ほんとに純粋に、淋しそうな顔してるのが気になった。だから2回目に見かけた時、声かけたんだ」
それはきっと、俺が中庭にいる圭典と佐田さんを見ていた時。
「って言うか、多分、笑ってほしいって思ったのが最初だから…一目惚れ?」
「ひっ…お、俺に?」
「んッフ。そう」
笑われた。
「由音、目ぇ悪いよ…」
「俺めちゃめちゃ視力いいよ? 七織が誰を見てるか気づいてからは、滝島のこと嫌いになっちゃって。何でこんな可愛い子にあんな淋しそうな顔ばっかりさせて、って。俺なら絶対、大事にするのに」
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