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第83話
そして、俺は早速あおの家に突撃した。
「最後は七織の気持ちだけど、俺はいいと思うな」
あおはそう言ってポテチを摘む。
「佐川は正直じゃん。誤魔化したりしないで七織に『好き』って言えるし、傷ついてる七織を見てきてるからそういうことはしないと思うし」
パリリッといい音を立ててポテチを食べると、「ってかさ」とあおは続けた。
「佐川のことは、俺より幡中に聞いた方がいいよ」
「うん…」
「幡中は、いいところもそうじゃないところも、教えてくれると思う」
「うん」
それは、本当にそうだと思う。友達だからって、いいところばっかり言うんじゃなくて、ちゃんとそうじゃないところも教えてくれると思う。
「俺さぁ、佐川から話聞いた時、佐川ならいいかなって思ったんだよね。七織が佐川と幡中のおかげで元気になったのは事実だし、新しい居場所ができたから、圭典とのことも前に進めたんだろうな、って思ってるし」
「それは…そう」
「けど相手のことよく知らないのも事実」
「うん」
「でもさ、もう佐川のこと信頼してるでしょ? 色々考えるより、自分の気持ちに正直になるのが1番だよ。嬉しかったんでしょ?」
そう問われて、俺はそっと下を向く。
思い出して、顔が熱い。
「…うん。でも、初めてだから…浮かれてるだけかも、とか」
「興味ない相手に『好き』って言われて浮かれんの?」
「ない…?」
「ないでしょ。一択で『ごめんなさい』だよ」
そういうものなんだ…。過去に比較対象がないから分かんないんだよな…。
「想像してみ? 山田から『好き』って言われたらどうすんの?」
「それは…ないよ」
「ほら」
「そうじゃなくて、状況としてあり得ないから…」
「じゃあ圭典から『好き』って言われたら? 今までひどいことしてごめん、やっぱり好きだ、って言われたら? 嬉しい?」
「…、」
想像したら、息が詰まった。
圭典のことは、ずっと好きだった。まだ苦しくなるくらい。
「…嬉しく、ない」
だけど、何だか嫌だった。
絶対ない状況だって分かってるけど、それでも嫌だった。俺がもがいた時間が、全部全部無意味なものに変わってしまう気がして。これはただの俺の意地。だけどその意地は、捨てたくない。
それにきっと、素直には受け取れない。
「でも佐川のは嬉しいんでしょ? さっきも言ったけど、自分が興味ない相手から好きだって言われたって嬉しくないよ。悩むとしたら『どうやって断ろうかな』でしょ。一瞬でも断ること考えた?」
「考えない…」
そんなこと、思いもしなかった。ただびっくりはしたけど…困りもしたけど、断るっていう選択肢は、浮かばなかった。
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