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第86話

「あの…」 俺も、あっしくんにそう言ってもらえて嬉しい。 「俺、いつまでもうじうじしてるの、嫌だなって。由音が俺のいいところ、教えてくれたから。嬉しかったんだ、本当に」 『それをよりに教えてやってよ。そうやって、七緒が前向きなところを伝えてやって』 「…うん」 今、返事は保留になってて、多分まだ『友達』でいいんだと思うんだけど…。ずっとこのまま、ってわけにはいかないから。 「ありがとう。俺、由音と話してみる。多分、ひとりで色々考えても答え出ないって言うか…ふたりでちゃんと話がしたい」 『俺もそう思う。ふたりのことだからな』 「うん。ありがとうね」 電話を切って、そっと息をつく。 そんな俺を、あおはポテチをパリパリしながら見ていた。 「いい傾向じゃん」 「そう、かな」 「七織が変わろうとしてるのは分かるよ。そういうの、佐川にも伝わると思う。自分のために変わろうとしてくれるのって、嬉しいと思う」 「…自分のため」 って、いうか。 「由音のためっていうか、俺のため、だと思う。真剣に向き合わないと、きっと後悔すると思うから」 「そっか」 あおはそう言って、にこりと笑った。 「それでも、そういう風に思ってくれるのは嬉しいんじゃない?」 「うん。…だといいな」 由音の明るい笑顔が浮かぶ。由音が嬉しいって思ってくれたら、俺も嬉しい。 あおの家を出て自宅へ戻ると、俺は由音に電話をすることにした。あの時はびっくりして上手く話せなかったし、2人に話したことを、由音にもちゃんと伝えるべきだと思ったから。 …モーニングコールしたの、昨日なんだよな。 昨日は全然何も考えないで電話したけど、今日はすごくドキドキしてる。 俺はちょっと震える指でスマホをタップした。 『…っ、はい…?』 めっちゃ慎重に出られた。 「あの…俺です」 いかん。詐欺のようだ。 「えっと、今、時間ある?」 『え、うん。あるけど…』 何かあんまり歯切れよくない。タイミング悪かったかな…? 「あの、話したいことがあって…電話しました」 『…はい』 やばいやばい。緊張してるから敬語になっちゃったら由音も何か緊張してるっぽい感じがする! 「さ、先程は、ありがとうございました」 ダメだ。これじゃサラリーマン。 「それで、俺、まだ由音のことよく知らないところもあると思うし、俺のことも知ってほしいと言いますか…あの、だから、そう! 由音のこと、もっと知りたい!」

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