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第87話
緊張であわあわした俺が何とかそう言い切ると、由音から帰ってきたのは沈黙だった。
あれ?
「…あの、由音…?」
え、俺何かダメなこと言った…?
『――そ、』
そ?
『そっちかぁ〜…!』
めちゃくちゃ脱力した声。そっちってどっち?
『あー良かったぁ〜!』
「え?」
『ごめん、勝手に変な想像してた』
「変な想像?」
『このまま振られるのかと』
「えっ、しないよ!」
いや、変に緊張して敬語になって雰囲気固かっただろうから分からなくもないけど!
「嬉しかったって言ったじゃん! 嬉しかったからちゃんと向き合いたいし、由音のこともっと教えてほしい。それに、俺の嫌なところとか、そういうのもあるだろうし…お互い、まだ知らないことの方が多いと思うから、その…」
『もうちょっと知り合って行きましょう、ってこと?』
「うん」
『俺はいいけど』
「ほんと? 良かった」
『うん。だってもっと好きになるだけだしね』
「っ、」
ふぐっ、て息が詰まった。
向こうで由音の楽しそうな笑い声がする。
…ずるい。俺は今こんなに…顔が熱いのに。
「そんなの分かんないじゃん。俺の変なクセとか知ったら嫌になるかもよ?」
『変なクセって、例えば?』
「えっ?」
急に聞かれると…。
「あぁ、えっと…目玉焼き食べる時は黄身だけ最後に取っておくとか」
『あはは。それ、俺もやる』
「えっ、じゃあお風呂に入る時、」
『急にお風呂の話はやめよう? 何か他に』
「?? お風呂以外?」
『うん、そう』
なぜ? まぁいいけど。
「あ、冬でもハーパンで寝る、とか」
『寝る時ハーパンなんだ』
「え、うん」
『冬でもハーパンなのは何で?』
「何か布地が脚に纏わりつく感じが苦手で」
『寒そうだけど、想像すると可愛いな…』
「そっ想像禁止!」
『何で!?』
何か…恥ずかしい。
「とっ、とにかく! しばらく親睦を深めたいですっ」
『う〜ん…七織は自分から囲い込まれに来てると言うか…俺は全然構わないけど。むしろ大歓迎』
「え?」
『あのさ、じゃあしばらく2人で一緒に昼食べたり、一緒に帰ったりするのは?』
「由音と2人だけってこと? いいけど…」
『ありがと。でもたまには日高くんとあっくんとも一緒に食べたり帰ったりしようね』
「うん。あと、色々、話したい。俺、伝えるの上手じゃないけど、頑張るから」
『…ありがとう。俺も頑張るね』
「うん」
…うん? 何を?
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