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第89話
むぎゅっと。
俺を腕の中へ。
「今の表情可愛い…!!」
「気持ち込めすぎ」
あおに笑われてる。
由音にハグされるの初めてじゃないけど…温かくて気持ちいいのに、ドキドキもする。だけど何か…ちょっと、安心も、する。矛盾してる。
これは、何でなんだろう。
「由音、」
「あ、ごめん。苦しかった?」
「ううん。…気持ちよかった」
「ッ」
「七織、言葉のチョイスは気を付けて」
「??」
「恋する少年には毒だからな」
「あっくん余計なこと言わないで」
あおとあっしくんが顔を見合わせて、あおは呆れ顔であっしくんは苦笑い。
え、何で?
由音はちょっと目尻が赤くなってた。
え、何で?
「何か不味かった?」
「ううん。七織は何も。俺の問題」
「??」
「そのままの七織でいてね」
「??」
何かよく分かんないけど…いいのかな?
曖昧に頷いた俺に少し困ったように笑った由音は、また俺をハグした。
「嫌じゃない?」
「うん。由音は?」
「好きな子ハグしてて嫌とかあると思う?」
それには俺の顔が熱くなる。
「あ、あの、何か急に恥ずかしい…」
「ん〜あと10秒」
「日高くん、止めないのな」
「七織が本気で嫌がってたら止めるけど、そうじゃなさそうだし」
それに、とあおは続けた。
「誰かに好かれて大事にされる感覚って言うか、そういうの、七織にも知ってほしい。どうでもいい相手からじゃなくて、自分も大事に思う相手からもらうのって特別でしょ?」
「そうだな」
「あと、俺は相手が佐川じゃなかったら殴って止めてるよ」
「それは俺もだな」
俺の背後で、あおとあっしくんがあははと笑う声が聞こえる。それに被るように、「えッ」と言う聞き慣れた声が耳に入った。
――圭典だ。
「は? え? 何してんの?」
「朝からうっさいよ、圭典」
「うるさくもなるだろうよ! 何してんだよ、佐川」
「あれハグだよ。見て分かんないの?」
「分かるから言ってんの!」
あおと圭典が言い合ってる。
俺が由音の腕の中で身動ぎすると、腕が緩んで由音が視線を合わせて来た。
「滝島に見られるの、嫌?」
俺は目を瞬かせて由音を見た。
そんなこと、考えてなかった。って言うか。
「由音 昨日、圭典の前でもハグするし、その…『好き』って言うって…」
「うん。言ったけど、七織が嫌がることは絶対したくないし」
「い…嫌、では…ない、けど」
「けど?」
「…ちゃんと、返事してないのに…こういうことして良いのかな、とは…」
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