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第90話
「友達でもハグするでしょ?」
「それはそうだけど…」
「七織のは友愛でも俺のはそうじゃないから困ってる?」
「困ってるって言うか…俺がただ由音の気持ちに甘えてるだけじゃない? それっていいのかな、って…」
「俺は甘えてくれたら嬉しい。七織が俺のこと信用してくれてるってことでしょ?」
それは、確かにそう。
俺が頷くと、由音は満面の笑みを浮かべた。
「ありがと。俺、七織のそういう素直なところ好き」
「っ、」
ドキドキが一際大きくなって、息が詰まる。こんなの初めてで、どうしていいのか分からない。顔に熱が集まるのが恥ずかしくて、俺は由音の胸に隠れるように伏せた。
その時、由音の胸もドキドキしてるのが分かって、何だか…くすぐったくて。可愛く思えて、身悶えしてしまう。
何か、もう自分が自分でないような…変な感じがする。
「七織可愛すぎない…?」
「佐川感動しすぎじゃない?」
「だって!! 可愛い…!!」
「まーでも俺もそういう七織は初めて見るかも」
頭上で由音とあおのやり取りが聞こえてたけど、俺は顔を上げられないでいた。だってまだ熱い。
それに、由音のことちゃんと見れる自信ない。
どうしよう…すごいドキドキしてる…。
「って言うか、いい加減離れろよ」
「圭典うっさい。七織が嫌がってないんだからいいだろ」
「俺が嫌だよ」
「だから? 圭典カンケーないし」
圭典があおにバッサリ切り捨てられてる。
「七織」
由音に呼ばれても顔を上げられないでいると、長い指がさらりと髪を通る感じがした。指先で俺の髪を弄んで、大きな手が後頭部へ回る。由音の手が気持ちよくて、このまましがみつきたくなる。けど。
俺まだちゃんと返事してないし、いくら居心地よくても…もらう気持ちに甘えてばかりなのは、よくない。
ドキドキから来る熱も引いてきたので、俺はそっと顔を上げた。
「由音」
「ん?」
優しい声と、柔らかい笑顔。どこか甘い感じのする視線。それが全部自分に向けられてると思うとまた顔に熱が集まりそう。
「あの、ありがとう。由音とハグするの、好き、かも」
「ぅグッ…毎日しようね」
一瞬息詰まらせた?
「まさかこんな小悪魔ちゃんになるとは…」
「振り回すつもりが振り回されてるってやつだね、佐川」
「それこそ特別感あって堪んねぇんじゃねーの?」
「分かってるね、あっくん」
一体何の話をしているのか俺には謎なんですが?
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