90 / 99

第90話

「友達でもハグするでしょ?」 「それはそうだけど…」 「七織のは友愛でも俺のはそうじゃないから困ってる?」 「困ってるって言うか…俺がただ由音の気持ちに甘えてるだけじゃない? それっていいのかな、って…」 「俺は甘えてくれたら嬉しい。七織が俺のこと信用してくれてるってことでしょ?」 それは、確かにそう。 俺が頷くと、由音は満面の笑みを浮かべた。 「ありがと。俺、七織のそういう素直なところ好き」 「っ、」 ドキドキが一際大きくなって、息が詰まる。こんなの初めてで、どうしていいのか分からない。顔に熱が集まるのが恥ずかしくて、俺は由音の胸に隠れるように伏せた。 その時、由音の胸もドキドキしてるのが分かって、何だか…くすぐったくて。可愛く思えて、身悶えしてしまう。 何か、もう自分が自分でないような…変な感じがする。 「七織可愛すぎない…?」 「佐川感動しすぎじゃない?」 「だって!! 可愛い…!!」 「まーでも俺もそういう七織は初めて見るかも」 頭上で由音とあおのやり取りが聞こえてたけど、俺は顔を上げられないでいた。だってまだ熱い。 それに、由音のことちゃんと見れる自信ない。 どうしよう…すごいドキドキしてる…。 「って言うか、いい加減離れろよ」 「圭典うっさい。七織が嫌がってないんだからいいだろ」 「俺が嫌だよ」 「だから? 圭典カンケーないし」 圭典があおにバッサリ切り捨てられてる。 「七織」 由音に呼ばれても顔を上げられないでいると、長い指がさらりと髪を通る感じがした。指先で俺の髪を弄んで、大きな手が後頭部へ回る。由音の手が気持ちよくて、このまましがみつきたくなる。けど。 俺まだちゃんと返事してないし、いくら居心地よくても…もらう気持ちに甘えてばかりなのは、よくない。 ドキドキから来る熱も引いてきたので、俺はそっと顔を上げた。 「由音」 「ん?」 優しい声と、柔らかい笑顔。どこか甘い感じのする視線。それが全部自分に向けられてると思うとまた顔に熱が集まりそう。 「あの、ありがとう。由音とハグするの、好き、かも」 「ぅグッ…毎日しようね」 一瞬息詰まらせた? 「まさかこんな小悪魔ちゃんになるとは…」 「振り回すつもりが振り回されてるってやつだね、佐川」 「それこそ特別感あって堪んねぇんじゃねーの?」 「分かってるね、あっくん」 一体何の話をしているのか俺には謎なんですが?

ともだちにシェアしよう!