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第96話

由音からの返事は、それはそれは熱烈なハグで来た。 ちょっと苦しい。けどそれ以上に嬉しくて、何でか涙がこぼれた。 俺も由音の背中に腕を回す。 先に来ていた人たちはもう食べ終わってどこかへ行ってて、ここには2人だけ。そんな安心感もあったし、本当はずっとこうしたかった。 「由音」 「ん」 「ちょっと苦しい」 「ごめん」 「でも嬉しい」 由音の腕はちょっと緩んだけど、俺はぎゅっと強く抱きついた。 「ありがとう。好きになってくれて。由音が好き。…大好き」 「俺も好きだよ。七織」 「なに?」 「嬉しくて泣きそう…」 「んふふ、俺も」 ほんとはちょっと泣いてるけど。由音も気づいてるだろうけど。 「好きっていっぱい言ってくれてありがとう」 「これからもたくさん言う。全然足りない。もう1日2回じゃなくてもいい?」 「うん。何回でも言って。嬉しいから」 「可愛すぎる…」 「俺もいっぱい言う」 「ん。期待してる」 体を離すと目が合って、由音の指が優しく俺の目尻を拭う。 「博物館行こうって言ったけど、もうちょっとここにいてもいい?」 俺は頷いて、由音に腕を伸ばした。 ハグ――ではなく、いや、それもあるけど――由音の頬に唇をくっつけるために。 仕掛けた後は恥ずかしくて由音の肩に顔を伏せた。由音は…うん、しばらく固まってた。 「あんな可愛いことされると思わないじゃん…」 「由音ずっとそれ言ってる」 「俺多分今日1日ずっと言ってる自信ある」 由音が復活してからも、俺たちは手を繋いでベンチに座っていた。離れがたくて、2人だけの空間をもう少しだけ堪能したくて。結局、博物館には行かなかったけど、また次の時に行けばいいよね、って約束もできたし。 プラネタリウムも息を呑むほど綺麗だったけど、由音と繋いだ右手に意識が集中しちゃってたから、また見に来たい。 「あ、そうだ。七織」 まだ帰りたくないね。なんて言いながら、駅のホームで2本目の電車を見送った後、由音が声を上げた。 「なに?」 「夏休み、一緒に出かけない? ひまわりが綺麗な所があって、七織と一緒に見に行きたい」 その時俺は唐突に、由音に告白された日の朝に見た夢を思い出した。 黄色い海のような広い広いひまわり畑を誰かと手を繋いで歩いていた、温かくて幸せで、愛おしい夢。 ――そうか。あれは、由音だったんだ。 「うん、行きたい! 一緒に行こう」 きっと俺は幸せそうに笑っていたと思う。 だって由音がそんな笑顔だったから。         ✩由音ルート(一旦)おしまい

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