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第99話

言葉でも態度でも傷つけて、何してるんだろう。 七織は俺に、嫌なことは何一つしていないのに。 気づいた時には、俺の手は七織に届かなくなっていた。 その事実にまた悔しくて苦しくて。 何で七織の気持ちから逃げたんだろう。何で間違いだ、って決めつけたんだろう。何で――自分で選んだのに、俺はこんなに苦しくなっているんだろう。 友達。って、自分で言ったのに。 でも、何をどうしたって過去は変わらない。 七織を傷つけた事実はなくならないし、七織が『いいよ』って言っても俺は多分気にし続けるだろう。 俺がいなくても大丈夫と言った七織を追いかけることはできなくて、だけどせめて、俺が壊す前には戻りたくて。 一緒に遊ぶ約束をした日、3人で七織が選んだ映画を観た。 やっと隣に七織がいる。無意識にそう思って、俺はまた自己嫌悪に陥った。 「この映画、予告見た時は難しそうって思ってたけど、面白かったね」 冷えたイチゴシェイクを赤いストローで吸うあおいの手には、映画のパンフレット。 七織が選んだのは、時代もののミステリ映画だった。ネットでも評判が高かったやつで、実際あおいの言う通り面白かった。 「面白かった、っていうの聞いてたから。観てみたかったんだ。主演の俳優さん、カッコよかったね」 パンフレットを捲りながら応える七織の表情は明るい。 何か…前より明るくなったな。って思うのは、俺の勘違いなのかな。どうなんだろう。 自分と離れて明るくなったっていう事実を認めたくないだけなのかもだけど。 「もう1回観に来たいかも…」 七織がそう呟いて、少し思案するように小さく首を傾げた。 今、誰を思い浮かべているんだろう。 きっともう、俺じゃない。 チクリと痛む胸は、だけど俺の自業自得。 向かいに座るあおいの目が、バカだね、って言っている気がするのはきっと間違いじゃない。 その時スマホが鳴って、「あ、ごめん。電話」と七織が席を立つ。その表情は、俺の知らないそれで。 「はーい、俺です」 嬉しそうな明るい声。少しふざけたみたいなその言い方に、相手との距離がすごく近いんだと分かる。 「今? うん、大丈夫。あの映画観たよ。面白かった」 あぁ、なるほどね。そっか、勧められたんだ。 ――淋しいような、苦しいような…ひどく苦い気分になる。 「主演の俳優さんカッコよくて…え? ふふっ、何言ってんの。俺の1番なんて言わなくても知ってるでしょー」 キラキラと光を振りまくような、七織のあんな笑顔を俺は知らなくて。 バカだな、って。苦い気持ちを、甘いバニラシェイクで呑み込んだ。               圭典くんのひとりごと おしまい

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