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第102話
俺が泣きそうな顔をしていたのかも知れない。あっしくんは俺に手を伸ばすと、宥めるように背中を優しく叩いた。
「何で、って聞かれると難しいな。気づいたら好きになってたから」
気づいたら好きになってた。
それは俺にも分かる。圭典のことは、気づいたら好きになってたから。
でも、それが自分だと思うと、何でなのかが分からない。何で圭典?って聞かれたら俺だって困るのに。俺はそれをあっしくんに聞こうとしている。
「最初は、ただ純粋に嬉しかったんだよ。幼稚園の頃一番仲良かったってか、一番好きなの七織だったし。まさか高校で会えると思ってなかったから」
「…うん。俺も」
「優しくてちょっとおとなしいのは変わってなくて嬉しかった。俺の知ってる七織だな、って思って」
そう言って、あっしくんは柔らかく微笑う。
俺は何でか泣きそうになった。
「ま、俺は可愛くなくなってたみたいだけどな」
「そっ、その節は誠に…!」
俺、力込めてもっと可愛かったって言ったね! そう言えば!
あわあわする俺に、あっしくんは声を上げて笑った。
「遠慮なく話してくれんの嬉しかったんだよ、本当に。だから、また仲良くなれたらいいな、くらいの気持ちだったんだけど、何だろうな…。七織がたまに淋しそうな顔したり、自己肯定感低くねぇか?って感じたり、そういうのが気になったっつーか」
上手く言えねぇな、って、あっしくんはちょっと笑った。
「離れてたし、俺の知らねぇ時間があるのは当たり前なんだけど、でもその間にそうなったんじゃねーかなって思ったら…何か、ちょっと堪らなくなった」
「え…」
「俺が七織を大事にしたい」
「…っ」
ストレートな言葉は、俺の胸を震わせるのに充分だった。
「大事にしたいし、大事にしてきたかった。だから、滝島には嫉妬したし、正直腹も立った。けど、誰を選ぶか決めるのは七織と滝島だし、自分の知らない時間に踏み込むのも違うしな。それなら滝島との思い出塗り替えればいいか、と思って」
「そ、んな風に思ってるの、知らなかった…」
「覚らせないようにしてたからな。それに七織は滝島のことだけ見てたから」
「そ…」
何も言えなくて、俺は口を閉じた。
圭典のことだけずっと見ていた。振り向いてくれない圭典の背中だけを。
「滝島のこと、一生懸命好きだったんだよな」
その言葉はじわりと温かく俺の胸に沁みて、涙がこぼれた。
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