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第103話

「羨ましいって思った。けど、そうやって真っ直ぐ誰かを想える七織が、すげー好きだな、って」 大きな手が、俺の涙を拭う。 「こっち向いてくれなくても好きだって気持ちが、ちょっと分かった」 「…相手俺だよ…」 「知ってるよ」 涙で揺れる声に、あっしくんの返事は優しかった。触れる手も優しくて、自分が大事なものになった感じが、した。 「七織だから好きになったんだよ。一途なところも、強がりなところも、つらい思いしたって自分で乗り越えられる強いところも、泣きそうな顔だって全部好きだ。七織が一番に頼る相手になりたいと思ってる」 俺は言葉が出なかった。 こんな言葉を俺がもらっていいのかどうか、そんな風に考えてしまって、何て言ったらいいのか分からなかった。 「1週間前に再会した相手に急にこんなこと言われても困るだろうから、今まで通りにして、ゆっくりでいいから考えてもらえたら嬉しい」 「…うん」 逃げ道を作ってるくれるあっしくんは優しい。俺は結局あっしくんの優しさに甘えてるけど、それじゃダメだ。自分を見てくれない淋しさも、気持ちを伝える怖さも、振られたらどうしようっていう不安も、そういうのを全部吹っ切って伝えてくれたってことを、俺は知ってる。 俺には出来なかったことを、あっしくんは逃げずにしてくれた。 だから俺は、その気持ちに向き合いたい。 「…あの、ありがとう。正直、俺でいいの?って気持ちが…強くて」 「うん」 「でも、そんな風に言ってもらえるの初めてで…何か…勿体なくて」 「勿体なくはないだろ。七織だから言ってんだよ」 「う、あ、その…っ、慣れてないから…っ」 今まで誰にも言われたことないし。 「あっしくんは慣れてるんだろうけど」 「俺だって自分から好きだって言うのは七織が初めてだけどな」 「ちょっ、ねぇ! 俺の心臓これ以上ドキドキさせるのやめてよぉっ」 ダメだダメだ! 色々ぐちゃぐちゃ考えてるけど心と体は正直で、嬉しいと思ってしまっている。心拍数が上がって、苦しくて、でも湧き上がってくるのはきっと…。 「ドキドキしてくれてんなら期待しててもいいか?」 「ちょっとねえ! ほんとに! もう…何て言ったらいいか分かんない…」 あっしくんを見れなくて、俺は手のひらに顔を押し付けた。絶対顔真っ赤になってる! 「…あおに、相談、してもいい?」 「もちろん。日高くんにはもう話してあるし」 「そ、なの…?」 「よりも知ってる」 「う…」 俺だけ知らなかったんだ…。

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