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第108話
憧れの人から好きと言われた自分は最強だということに気付かされた、翌日。
俺はあおと電車に揺られながら、日曜日のことをひたすら反芻していた。寝る前にも反芻してたんだけど、あっしくんの大きな手の感触とか思い出したらドキドキしてしまってあんまりよく眠れなかった。そうか…俺のこと好きなんだ…、って思うのって、もう完全に自惚れだし。そんな自分恥ずかしいし。生まれて初めて羞恥心とも戦った。
でも結局最後に残るのは、嬉しいっていう気持ち。
これが『好き』に繋がるのかどうか、まだ分からないけど…。でも…。
「七織、ボーッとしてないで降りるよ」
「あ、うん」
「昨日のこと?」
「他に考えることなんてないよ」
「ふ〜ん?」
あおがちょっと嬉しそうなのは何でかな。
「他に考えることなくなって良かった」
機嫌良さそうにそう言うと、あおは軽快な足取りで階段を下りていく。俺もそれを追いかけて改札を抜けると、もう見慣れた後ろ姿が目に入った。
胸が大きく跳ねる。
「あ。佐川〜、幡中〜、おはよー」
俺の様子なんてお構い無しにあおが声をかけると、二人はこっちを振り返って軽く手を挙げた。
「おはよ〜。七織、昨日よく眠れた?」
由音に見透かされてる…。
「電車ん中ずっとボーッとしてたよ」
バラされた…!
「おはよ」
「ぅおはよぉ…」
あっしくんは自然に声かけてくれたのに、意識しまくりな俺よ…。あっしくんが可笑しそうに笑って、俺はじわりと頬が熱くなるのを感じた。
恥ずかしい…のとは、何か違う。
何だろうな、と思いながら、何となく視線はあっしくんの手を追ってしまう。
昨日、涙を拭ってくれた、優しい手。
「七織?」
「あ、ごめん。考え事してた」
「昨日のこと以外考えることないってさっき言ってたよ」
「っ、あお、全部バラすのやめてっ」
「七織は考えるより喋った方がいいよ」
「ぅ…」
それには何も返せない…。
「ゆっくり慣れて行こうな」
あっしくんに苦笑いで言われて、俺は素直に頷いた。
「うん」
「ま、幡中がいいならいいけどさ」
「焦らせるより大事にしてぇな、って思ってるから」
「んん〜、七織にはちょうどいいかもね」
顔の熱が引かないどころかさらに上がってきて、俺は顔を上げられないでいる。大事にしたいって言われると、すごく…何て言ったらいいのか分かんないけど、ふわふわしてしまう。
多幸感、って…こういうこと…?
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