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第110話

そうだな。って笑う顔は穏やかで、何か胸が…ムズムズした。ムズムズ? 何だろう…そわそわとも違うし…。こそばゆい、みたいな? 目が合うと、どうした?っていう風に首を傾げる。その仕草が可愛くて、つい笑ってしまった。 「あっしくんってたまに可愛いよね」 「幼稚園の頃とどっちが可愛い?」 「それは幼稚園の頃だね」 「あっくんが、可愛い…?」 由音にはご理解頂けなかったようで、不可解な顔して首ひねってる。普段はカッコいいんだけど、たまに可愛い瞬間があるんだよな。 「七織がそう思えるんならいいんじゃない?」 「あ、それもそっか」 と思いきや、あおとふたりで何やら納得している。俺がそう思えるんならってどういうこと? 「でも七織は無意識っぽいけど」 「そのうち気づくでしょ」 何の話? 「あっくんは平気なの?」 「幡中はそれも楽しんでそうな気はするけど」 「好きな相手に振り回されんのも悪くねぇな、とは思ってる」 「余裕じゃん」 「そういうわけでもねぇんだけどさ。『可愛い』が勝つんだよな」 「なるほどね~」 俺には分かんないけど、あっしくんの言う『好きな相手』が俺なのは察した。察したから、顔が熱い。『可愛い』のも俺なのかな…? いや、それはいくらなんでも自惚れが過ぎる。 と、俺が自己肯定感爆上がりの自分を律しているとあっしくんがこっちを見た。 「七織は俺のこと『たまに可愛い』って言ったけど、七織の方がいつも可愛いからな」 合ってた!! 自惚れじゃなかった!! 羞恥と歓喜が同時に押し寄せて、俺は思わずあっしくんの肩に頭突した。人には見せられないくらい顔が真っ赤になってる自信がある。だってすごく熱い。 「っそ、ういうっ、不意打ちはっ…やめてください…っ!」 心臓もたない。ほんとに。 「七織が可愛い」 「ほんとだね。可愛い」 あおと由音の『可愛い』は何ともならないのに。 何であっしくんに言われた時だけこんな…苦しいのに嬉しい。やばい、何か…胸が震えてる感じが…。 「――何してんの? こんな道の真ん中で」 不意に不機嫌そうな冷たい声がかかったけど、俺はまだ顔を上げられないでいた。声の主は分かる。 圭典だ。 前は圭典のこういう声が怖くて悲しくて嫌いだったけど、今その声を聞いても俺は平気だった。うんまぁ、今はね、羞恥と歓喜でそれどころじゃないからね。怖いとか悲しいとか入る隙がないからね。圭典の冷たい声を聞いても顔の熱が引いてく感じがないし。むしろあっしくんの腕の筋肉を感じてちょっとそわそわしてる自分がいる。 俺、やばくない?

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