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第111話
「見てわかんないなら通り過ぎれば?」
あおのいつものしれっとした声。
「真ん中でそんなことしてたら邪魔なんだけど」
「悪い。今退くわ」
不機嫌な圭典の声に応えたあっしくんが、俺の肩を抱いて…あわわわわ…! 肩抱かれたらこれ、正面から抱きついてるみたいな…!
前のハグは何とも思わなかったのに、今は心臓がすごい忙しい。
大体さぁ! 夏服って薄いじゃん! 体つきとかそういうの、ダイレクトに感じるじゃん!
インナー着ててもあっしくんの締まった体の感覚が分かるから、鼓動がおさまる感じがしない。
「ほら圭典、通れるようになったよ。さっさと行きなよ」
「…あおい」
「何。朝からうざいんだけど」
「日高くん、いつにもまして辛辣」
由音の素直な感想には同意する。
…あっしくん、体温高めなのかな。ちょっと安心する温かさというか…。
「圭典くん、行こう? 牧瀬くんには牧瀬くんの事情があるんだよ、きっと。日高くんの目も冷たいし、ね? 行こう?」
佐田さんの声。あおの目が冷たいから早く行こう、が本音なんだろうな…。
「…七織、泣かせてんじゃないよな?」
「は〜あ? 圭典じゃないんだからそんなことするわけないだろ。どの口が言ってんだ」
俺より先に口を開いたのはやっぱりあおで、圭典の声に負けず劣らずっていうかむしろ勝る不機嫌さが滲んでいた。
「…っ、心配するくらいはいいだろ」
「いらない心配だから言ってんの。ねー佐田さん、早くこいつ引っ張ってってよ」
「んんもー、圭典くん早く行こうよー。日高くんの目が怖いよー」
佐田さんも隠さなくなったなぁ。
っていうか、あっしくんの腕がまだ俺の肩にあってドキドキしてる。顔の熱は引いたかな…?
「…あっしくんって、平熱高い?」
「暑いか?」
「ううん。あの…あったかいの落ち着くって言うか、安心…する」
「そ、っ…なら、うん。良かった」
ん? 俺変なこと言った?
あっしくん返事詰まってなかった?
「幡中も動揺することあるんだね」
「そりゃあるだろ」
あっしくんの声に苦笑いが滲む。
離れなきゃな、って思うのに、あっしくんの体温はなぜか離れ難い。このまま背中に腕を回しそうになって、いやまだ返事もできてないのにそれはダメだと自分を留める。留めるけど、しっかりした胸元に額を押し付けてしまったのは仕方ないと思うんだ!
「七織って結構小悪魔ちゃん」
「ちょっとたち悪いよね」
あおの感想ひどくない!?
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