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第113話

ただ甘えていたいわけじゃない。って思っていながら、俺はすごくあっしくんに甘えてる。と言うか、甘やかされてる。言葉とか、態度とか、そういう全てで。それじゃダメじゃん、って思うんだけど…。 「七織を甘やかしてる幡中、めちゃくちゃ嬉しそうだよ」 というあおの一言で、俺はダメになった。そんなん聞いたらもうダメじゃん。抗えないじゃん。 嬉しいんだ…そ、そっか〜〜!!ってなっちゃうじゃん! でも今日は、そうじゃなく、俺の気持ちを伝えたい。好きだって言いたい。 ヘタレんなよ、とあおに気合を入れてもらった俺は、確固たる意志を持って改札を抜けた。あっしくんからは、合流する電車の何両目に乗ったという連絡が入っているので、それに合わせてホームに立つ。 そもそも告白したことないし返事するのも初めてだから、いつどんなタイミングで伝えたらいいのかイマイチ分からない。分からないけど、自分の中にしまっておくより知ってほしいし、受け取ってほしい。あっしくんから貰った『好き』は、俺にはすごく嬉しかったから。 電車がホームに滑り込んでくる。少しの緊張とワクワクがぴょこりと頭を出すのが分かって、俺はそっと深呼吸をした。 プシュッと軽快な音がしてドアが開く。目の前に好きな人が立ってるって、すごい幸せだな。 「おはよ」 何か…顔がだらしなくなってる気がする。声とか表情に、気持ちが載ってしまってるかも。でも、そういうの分かりやすい方がいいのかな。 「おはよ。今日天気良くてよかったな」 「うん」 乗り込んだ俺にスペースを譲ってくれたあっしくんに頷く。距離が近くなって、体温が分かりそうなそれにドキドキする。 「プラネタリウム結構久しぶりだな。七織は?」 「俺も、久しぶり」 声がすごく近くで聞こえて、それにもすごくドキドキする。こんなんなってんの俺だけかな…。 「前に圭典がさ、佐田さんと一緒に行ったって言ってて、俺も久しぶりに誰かと行きたいなぁって」 俺はそう言って、思い切ってあっしくんを見上げた。 「その時浮かんだのが、あっしくんだったから。ふたりで、行きたかったんだ」 でも何だか恥ずかしくなって、視線は下へ。 「そ、か。ありがとな、誘ってくれて」 「うん」 足元を見たまま、俺は頷いた。視界の中で、あっしくんの手が少し躊躇うように俺の指に触れる。俺は自分の気持ちに正直に、その手をそっと握った。離さないように。 「…あのさ」 「うん」 「後で、話したいことがあるんだけど」 「うん」 握った手が、熱い。 「…聞いてくれる?」 「聞かせてほしい」 「ありがと」

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