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第114話
『後で』って、いつが妥当なんだろう。
あっしくんは多分俺を急かさないだろうから、これは俺が自分で切り出さないと始まらない。と、思う。
最寄り駅で降りた俺たちは目的地へ向かっているわけなんですが…。歩きながら話していいことじゃないよね。じゃあ着いてから?
でも着いたらチケット買わないとだし、お昼のタイミングとかもあるし…。かと言って、話聞いてほしいとか言っておいて最後にするわけにもいかないし。お昼食べる前? 食べながら? 食べた後? うぅん…。
悩む俺の視界の隅に、こんもりした緑が綺麗な広場が映った。え、めっちゃ雰囲気ある。色とりどりの花が無造作に植えられたようなそこは、テレビに出てくるようなイングリッシュガーデンみたい。
「あっしくん見て! 綺麗!」
足を止めて、俺が指差す方へ視線を巡らせたあっしくんは、本当だ、と呟いた。
「こんなとこあったんだな」
「ね。あんまりこっち来ないから知らなかった」
「自由に入っていいみたいだし、ちょっと見てくか?」
「え、いいの?」
「プラネタリウムだって1日1回じゃねぇし。七織が興味あるもの知りたい」
「ありがとぉ…」
照れる。
けど、そういうのストレートに言ってくれるのは嬉しい。
「あっしくんはさ、」
「ん?」
「色々、こう…俺に合わせてくれるって言うかさぁ、優先してくれるじゃん?」
自分で言ってて恥ずかしくなってきたけど、事実なんだよな、これが。
「すごく嬉しいんだけど、俺も同じって言うか…」
みどり豊かなガーデンへ足を踏み入れる。くどくなく優しい自然の香りが鼻をくすぐった。
その香りにホッと息を吐いて、穏やかな気持ちであっしくんを振り返る。
「俺もね、あの…あっしくんがしてくれるみたいに、したいと言うか」
うまく伝えられるかな。
「居心地いいって思ってもらいたいし、一緒にいて安心してほしい。隣にいてくれてよかったなぁ、って…思ってほしい。そうなりたいから、その…1番近くに、いてほしい」
「…七織」
「一緒にいると、触りたくなる。あのっ、変な意味じゃなくてねっ? 自然と、その、俺、あの…」
これ言うの、すごい恥ずかしい…!
「あっしくんの体温が、す、好きと言いますか…」
「…体温だけか?」
「…っ、」
ヘタレんなよ。というあおの言葉を思い出す。
「…だけじゃなくて、あっしくんのことが、好き。まだ、好きでいてくれてるなら…ちゃんと付き合いたい、です」
羞恥から、顔は見れなかった。でも、伝えることはできた。と、思いたい。
「まだ、って言うか」
「…はい」
「ずっと好きに決まってる」
あっしくんの手が俺の腕を掴んだ。優しく、でも何か…しっかり意志を込めた感じで。
熱いのは、どっちの手だろう。
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