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番外 由音編

「思い出の場所?」 「そう」 俺の問いに、由音は紙パックのミルクティーを握ったまま重々しく頷いた。 中身飛び出さないように気をつけて。 きっかけは、俺とあっしくんが幼稚園の頃よく行ってた駄菓子屋さんがついに閉店しちゃったんだよね〜なんて話していたこと、だと思う。 あっしくんは小さい頃近くに住んでて、あおも生活圏は同じだし、結構伝わる話が多い。ちなみにあおはあっしくんと入れ替わりみたいなタイミングで近所に引っ越して来たから、この2人は小さい頃の面識はない。 由音は生まれも育ちも市外なので、なるべく地元の話はしないようにしてたんだけど…。 「…いいなぁ」 由音が不意に、ポツリと呟いた。 俺はハッとして由音を見た。 「ごめん。自分の分かんない話されたら気分よくないよね」 「えっ、違う違う」 「俺と七織の距離感に妬いてるだけだと思うぞ」 「悔しいけどそれはそう!」 由音のこういう潔いところは好きだな。 「七織とあっくんは思い出の場所って多そうだなー、と思って」 「思い出の場所?」 そして話は冒頭へ戻ります。 「小さい頃から一緒に過ごしてきた場所、的な」 「う〜ん…。でも幼稚園児だったし、お互いの家と近所の公園…くらいしか。あと駄菓子屋さんと…あ、クロの家」 「白い犬に『クロ』って名前つけてた家な」 「そう、それ」 「…逆に気になる」 クロの家に住んでた人はあの時既におばあちゃんだったから今はもう亡くなっちゃって、家も取り壊されて新しくアパートが建っている。何かちょっとノスタルジックな気分になる。 「もう付き合ってんだから、俺に妬いてないで2人の思い出の場所みたいなもんを作ってけばいいんじゃねぇの?」 「俺もそう思う〜」 こういう時ってさぁ、あおとあっしくんはタッグ組むよね。 「デートして来いよ」 「俺もそう思う。行ってきな」 2人にそう言われ、俺と由音は顔を見合わせた。 デートって響きはいまだに何か照れる。 「って言っても…」 「よりの地元、七織はまだ行ったことないよな?」 「うん」 「今度案内して来い」 「え、だって何もないじゃん」 「特別なもんなんかなくてよくね?」 「俺の地元も特別なものって特にないしなぁ。単純に、由音が住んでる所ってどんなか気になる」 「あ、はい」 と、いうわけで。 普段降りない駅で降りるのってワクワクするな〜。って気分で迎えた週末。

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