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第118話

由音は改札を出たすぐそこで待っていてくれた。 「お待たせ」 「や、そんな待ってないよ。大丈夫」 んん、何か今のすごいベタな待ち合わせの会話っぽかった…! 「地元の案内って言ってもほんと何もなくて…」 由音はそう言ってちょっと笑い、とりあえず駅出よっか、と出口を指差した。 何もない、って言ってたけど、駅を出ればすぐ商店街があって歩道もオシャレな感じに舗装されていた。 「ここの肉屋でよくあっくんとコロッケ買い食いするかな」 「美味しそう。おっきいね」 「だからつい買っちゃうんだよね〜。メンチも美味しいよ」 商店街の中にカフェもあったけど、由音曰く学生向けではないとのことで、きっとお高いんでしょうね。 「あと、こっちに行くと図書館とか市営プールとかあって、あっちは小学校とか中学校とか」 「ふ〜ん。…学校、ちょっと見たいかも。遠い?」 「ここからならそんな遠くないよ。学校って興味あるもん?」 「単純に由音の卒業した学校見てみたいって言うかさ。学校に興味があるわけじゃなくて、由音のこと、もうちょっと知りたい…だけです」 「喜んでぇ…!!」 居酒屋? じゃあ案内するね、と言った由音と並んで歩く。午前中だけどもうあっついな。由音は太陽の日差しがよく似合う。気がする。 明るいし、華やかだし。 俺がそんなことを考えていると、ちょい、と手が触れた。 「…七織」 「なに?」 「手、つないでもいい…?」 「え」 「嫌なら全然、いいんだけどっ」 嫌、ではないけど…。 「その、えっと…知り合いとかに見られても…?」 「俺は全然平気。あっ、ごめん七織はそういうの嫌だよね」 「違っ、由音が、誰かに見られて嫌な思いしたら…それは嫌だ」 「?? 俺?」 あれ? ほんとに不可解な顔されてる。 「由音の地元じゃん?」 「うん」 「知ってる人、いっぱいいるじゃん?」 「うん、まぁ」 「彼女じゃなくて彼氏と手ぇ繋いでるの見られて何か言われたりとか噂されたりとか、そういうので由音が嫌な思いしたら、嫌」 「え、でも俺可愛い彼氏出来たの友達にも言ってあるしなぁ」 「え!?」 初耳ですけど!? 「弟妹には会わせろって言われてるし。まだ独り占めしたいから会わせないけどね!」 そうじゃない。そういうことじゃない。 「だから見られても『噂の彼氏か』って感じだと思うよ?」 「あ、へぇ…」 待って待って。どんな反応が正解? え、みんな彼氏の存在受け入れ済なの?

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